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インプラントは何歳まで可能なのでしょう?

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はじめに

よくある質問に「インプラントは何歳まで可能なのでしょうか?」というものがあります。

歳をとれば体力も衰え手術がたいへんなのではないかとか、歳なんだから別に入れ歯でいいじゃないかとか、誤った情報が流布しています。

実際には80歳でもインプラントが可能な人もいれば、40歳でもインプラントはやめておきましょうと言わなくてはならない人もいます。

この差は何なのかについてお話しましょう。

手術の負担を心配する必要はないが…

インプラント1本を入れる手術は、どれくらいの時間がかかるのでしょう。実は10分で終わるものから、1時間以上かかる手の込んだものまで千差満別です。ですから、それらを一緒くたに考えるのは間違いです。

実はインプラントを入れる行程だけであれば、数分で終わります。単純な手術なら、健康な高齢者であれば問題にはなりません。

では時間がかかる手術とは何でしょう?それは歯肉や骨の量を増やす増成手術など、インプラントに付随する手術が含まれる場合です。逆に言えば、増成の必要がない手術は短時間で終わり負担は少ないということです。

では増成が必要になるのは、どのような場合でしょう?

骨がないところにインプラントをそのまま入れたら、インプラントがはみ出してしまいます。インプラントは骨の中に完全に入っていなくてはならないのです。

そこで骨を移植して、インプラントがきちんと埋まる骨の量を造成する必要があります。また移植して増えた骨をきちんと覆うため、歯肉の量も増やす必要があります。このような手術は複雑なため難易度が上がり、術後に感染する可能性も高くなります。

では高齢者に対し、骨や歯肉の移植をしてまでインプラントをするべきでしょうか?それは、患者さんのご希望と、後で説明する栄養状態しだいで変わります。

しかし一般的には、あまりに理想を追いすぎて難しいインプラント手術でもしないかぎり、高齢者のインプラントは十分可能です。

ただし、できるだけ以下の条件がクリアされている必要があります。

喫煙と糖尿病がまず問題に

加齢は確かにインプラントにとってリスクとなりますが、実年齢だけでインプラントの可否を決めるわけではありません。本当に大切なことは以下のとおりで、一般的には喫煙と糖尿病が問題になります。

喫煙

まず問題になるのは喫煙、すなわちタバコを吸うかどうかです。

喫煙が体に悪い影響しかないことは今さら言うまでもありませんが、こと口の中ではタバコの煙が直接歯肉に当たりますので、その影響は強力です。ニコチンや一酸化炭素の影響で歯肉と骨に貧血や栄養障害がすぐにおき、しかもなかなか回復しません。ただでさえ遅いターンオーバーは、さらに遅くなってしまいます。

そのため手術後に感染してしまったり、またうまく行ったとしても将来的に感染が進みやすくなってしまいます。

年齢にかかわらず喫煙者は、そのままインプラント治療の適用から外れます。

糖尿病

糖尿病が進行すると、歯肉の毛細血管が破綻するので栄養が届きにくくなります。

また白血球は糖分とくっついて変質し(糖化といいます)、バイ菌を片付ける力が激減します。つまり感染にはとても弱い状態になります。

糖尿病も年齢にかかわらず、インプラント治療の適用から外されることになります。

ただしコントロールが良好で、継続の見込みがあるかたはその限りではありません。かなり注意が必要ですが、インプラント治療は可能です。

 

歯周病と歯ぎしり・噛みしめ

歯周病

歯がなくなってしまった原因がムシ歯や事故ではなく、歯周病であった場合は、かなり注意が必要です。歯周病源菌は、インプラントの周りにも感染するからです。

残っている歯の歯周病の治療が完了していなかったり、磨き残しが多い方のインプラント治療はできません。

しかし現実的にはそれらを無視して行われているインプラント治療が多いので、問題が露呈しやすいのでしょう。

高齢者であれば、なおさら歯周病が解決していない人が多いでしょう。しかしそれは、ただ年齢が行ってるだけでインプラント治療ができないというわけではありません。若くても歯周病がある程度解決していなければ、とうぜんインプラントの適用ではありません。

なお、歯周病・喫煙・糖尿病については、以下もご参照ください。

歯ぎしり・噛みしめ

意外かもしれませんが、歯ぎしりはインプラントの大きなリスクとなります。

「歯ぎしりはしていません」とおっしゃるかたは多いのですが、信用するわけにはまいりません。歯ぎしりを自分で気がつくかたは、ごくわずかだからです。

私たちが見れば、歯ぎしりがあるかどうかはすぐに判ります。歯が異常な減り方をしていれば、まず間違いありません。しかし現代の通常の食事をしている限りでは、食事の力だけで歯が異常な減り方をすることはありません。

歯ぎしりはなぜ自覚がないのでしょう?まずそれは無意識のうちに行われていること、そしてほとんどの場合「歯ぎしり」ではなく、「噛みしめ」だからです。動かしてギコギコ音が隣の人にまで聞こえるのが歯ぎしり、動かないで強く潰している状態が噛みしめです。もちろん音はしません、

歯ぎしり・噛みしめとまでは行かなくても、上下の歯が常に接触する状態を最近ではTCH(Tooth Contact Habit=歯接触癖)と呼び、顎の筋肉が異常な緊張状態にあること全般を現します。

TCHはインプラントを揺さぶり、感染との相乗効果でインプラント周囲の骨を破壊して行きます。高齢者のほうが回復力が遅いので、TCHの悪影響を受けやすくなります。

また私見ですが、高齢者のほうがTCHの頻度が高いように思います。このようなことから、高齢者のインプラントはリスクが高いと言っても良いのだと思います。

なお、歯ぎしり・噛みしめに関しては、以下もご参照ください。

 

性格的に問題があると判断されることも

ちょっと書きにくいのですが「この人は頑固で指導を守ってくれそうにないから、インプラント治療は辞めよう」と判断する場合があります。

あくまで自分流を押し通そうとする頑固なかたや、自分に都合が悪いことを聞こえないふりをする人は高齢者に多く感じます。

後々のトラブルの可能性を考えると、お互いにリスクをとってまでインプラントにする必要はまったくありません。そういう意味で、高齢者はインプラント治療を辞めたほうが良いだろうという判断は妥当です。

また性格ではありませんが、認知症の方は自己管理ができないので、インプラント治療の適用外になります。インプラントで噛み合わせを回復させることで認知症を予防することは可能と思いますが、認知症の治療のためにインプラント治療を行うことはありません。

栄養状態さえ良ければ年齢に関係なく可能

さて、ここまで書いてきたことは一般論でした。それらに加え、私たちはもう一つ重要な判断基準を持っています。それが栄養です。栄養状態が悪い方は、インプラント治療をご遠慮いただかなくてはなりません。

実年齢と肉体年齢は、まったく異ることをご存知でしょう。お気付きの通り、高齢であっても肉体年齢が若い人はインプラント治療が可能であり、若年でも肉体年齢が高い人はインプラント治療ができません。

では、肉体年齢はどのように測るのでしょう。栄養療法を行なっている私たちは以下のように、食事記録・血液検査・便通の3点を参考にしています。

食事記録

言うまでもなく、食事から摂る栄養が体を造る原材料です。インプラントを守る免疫も、栄養不良では効果が発揮できません。

しかしほとんどのかたはタンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルに明らかな不足がある一方、糖質だけが多い傾向にあります。インプランを長く使えるようにするために食事の改善を、また体をあるべき姿に近づけるために何かしらのサプリメントの使用をお願いしなくてはなりません。

さらには、できれば水銀やカンジダなどの阻害因子についても評価したいところです。阻害が強く出ている方は新陳代謝が遅く、インプラントの維持に問題が出やすいと考えています。

阻害因子について詳しくは、下記のリンクをご参照ください。

血液検査

食事改善やサプリメントにより、入る栄養が改善されていそうであれば、血液検査を行います。

一般的な血液検査とは、肝機能や腎機能など臓器別の評価だけですが、私たちは分子栄養学に基づく栄養解析も行います。これにより全身の栄養状態や酸化ストレスなどを評価します。

結果が以下の状態に近ければ、高齢者であってもインプラント治療は可能と考えています。なお一般的な血液検査で用いる基準値は当てはまりません。

AST ALTが18~22で、その差が2以内
γ-GTP  18-22
BUN  16~20
TP  7.0~7.6
Alb  4.0-4.8
フェリチン  50
25OH Vit-D  50
ALP  180
LDH  180
カリウム  4.5
Hb 男13.5   女12.5
MCV 90-95
1.5AG  12以上
総コレステロール  200-280
ペプシノーゲン1  50
抗ヘリコバクターピロりIgG 3未満
銅亜鉛比 1

かなり大雑把ですが、それでもこの値から大きく外れていることは若い人でも普通であり、現代人の栄養欠損はかなり進行していることが解っています(隠れ栄養失調と呼んでいます)。

しかも高齢者はその期間が長く続いていると考えられるので、状況は若い人よりもさらに悪いと考えられます。特に骨粗鬆症・胃炎などはリスクとなります。

隠れ栄養失調について詳しくは、下記のリンクをご参照ください。

便通

腸は、健康のすべてを司る、超重要器官です。便秘や下痢が続いている場合は、腸の調子が悪いと判断されます。

腸の調子が悪ければ、栄養の消化吸収だけでなく、免疫や代謝に問題が出ていることは明らかで、これは歯周病治療やインプラントの維持に大きく影響すると考えています。

高齢者で下痢や便秘に改善が見られない方は、とりあえず義歯で過ごしてもらい、治療を進め改善してきたら改めてインプラント治療を検討することをお勧めしております。

ということでインプラント治療は、栄養状態さえ良ければ年齢に関係なく可能ということになります。

なお胃腸機能に問題がある方には、以下のサイトをご覧いただき、実行できるものから始めていただいております。

吉田 格
いかがだったでしょう。高齢者といえども、一概にインプラント治療ができないわけではないことが、お解りいただけたと思います。

実際の判断はもっと複雑で、とてもここで説明しきれるものではありません。

しかし何らかの問題があって歯がなくなり、義歯やインプラント治療を検討しているわけですから、その原因が片付いているかどうかが焦点になります。

歯周病はどうでしょう?歯ぎしりは?栄養は?

実年齢は、それほど大きな問題ではありません。ただ、年齢を重ねるに連れ、あなたがあなた本来のあるべき姿でなくなってしまったのであれば、その原因を考えましょう。

そしてその解決に向けて動き出した時、インプラントはさらにあなたをあるべき姿に戻す原動力になることでしょう。諦めずに、ぜひ解決の糸口をさぐってみてくださいね。

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