非外科治療とは
インプラント周囲炎の治療はどのようにするべきか、実はまだ統一見解はありません。しかし私たちは、価値あることは全部やる以外にないと考えています。「様子を見ましょう…」などと消去的なことを言っている場合ではないのです。
ここではインプラント周囲炎のうち、まだ軽症な場合に適用される非外科的治療の実際をビデオにまとめてみました。
非外科的とは、メスを使って歯肉を切らない、ということだと思ってください。外科的治療についてはBlog:歯界良好に挙げてありますのでそちらをご参照ください。
治療の実際
1・歯磨き
当然なのですが、自力である程度歯やインプラントが磨けることが最低限必要です。これができておりませんと、次に進めません。自力で100%磨けるわけではありませんので、専任の常勤歯科衛生士がお手伝いいたします。詳しくはこちらをご覧ください。
2・歯周基本治療
これも当然なのですが、歯石をとり、歯肉の中までお掃除します。また噛み合わせのバランス調整もします。
3・栄養医学療法
歯周病やインプラント周囲炎の治療に栄養を用いる試みはまだ始まったばかりで一般化していませんが、非常に有効であることは確かです。血液検査などから栄養の過不足を読み解き、免疫力や治癒力を予め改善しておくことで予後を良好にします。特にビタミンCやアスタキサンチンを使った抗酸化アプローチは重要です。詳しくはこちらをご参照ください。
4・インプラント上の冠と芯の除去
1〜3までができると、いよいよインプラント周囲へ積極アプローチします。まず器具を到達しやすくするために、インプラント上の冠(クラウン)と芯(アバットメント)を除去します。最近は冠を除去できない方法で治療されているものが増えており、ちょっと困っています。ビデオでは冠のみを除去した状態で始めています。
5・ブラシ洗浄
回転するブラシで歯肉から露出している部分を清掃します。歯肉の中までは入りません。
6・音波洗浄
状況によっては、ここから麻酔が必要になります。エアスケーラーという音波振動装置にプラスチック製の柔らかい先端をつけて、歯肉からできるだけ深いとことまで洗浄します。
7・エルビウムヤグレーザー
エルビウムヤグレーザーは水に反応するレーザーで、一般的にはムシ歯の治療に使われます。レーザーの先端を歯肉の中に入れて照射すると水の強力な攪拌が発生し、インプラント体を清掃します。また炎症で痛んだ歯肉の一部も除去され、熱による殺菌と、細菌が産生する毒素(LPSなど)の除去も行われます。ただしあくまで非外科的な使い方なので、レーザーが満遍なく行き渡るわけではありません。
8・PDT(光線力学療法)
PDTとは、歯肉内に注入した光増感剤(光感受性薬剤)という薬が強力な特殊LED光と反応し、活性酸素を発生させることで歯周病原菌を不活化させる新しい治療法です。耐性菌を造らない安全な抗菌法なのですが、まだ効果は不確実で、上記の治療法との併用で効果を発揮するものと考えています。PDTについてはBlog:歯界良好でご説明しています。
なおこのビデオでは血液がインプラント表面に付着した状態で治癒する事を目的にしていますので、抗生物質などの薬剤の注入は行っていません。
9・その他…
飲み薬は不要な場合が多く、麻酔が覚めた後の痛みはほとんどありません。食後の歯磨きは直ちに始めることができます。
菌血症の可能性がある場合は事前に抗生物質を使いますが、最近では腸内細菌叢の破壊を防ぎ免疫力を上げるために、ハーブ系の天然抗菌剤を使っています。
非外科的な方法は、インプラント周囲粘膜炎〜軽度インプラント周囲炎の処置が対象です。骨の破壊が進んでいる場合は器具もレーザーも深い所までは届きませんので、外科的な治療を行わなくてはなりません。その場合は骨移植による骨再生も可能となります。
インプラント周囲炎の治療は最低でも上記1と2が、できれば3までが完了してから行う必要があります。結果を急いでも効果はなく、原因解決を優先しなくてはならないことが最重要です。