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歯周病は薬で治るのか??

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はじめに

歯周病が薬で治せたら良いと思いませんか?歯ブラシを頑張らなくて良いのなら、こんな楽な話はありません。誰もがそう思い、研究が続けられてきました。

しかし結果はすべてダメ。もちろんこれにはちゃんと理由があります。ただし、今後期待できる薬もあります。

歯周病における薬物療法の現状と展望について書いてみます。

歯周病が薬で治らない理由

歯周病は感染症なんだから薬で、つまり抗生物質で治るだろう…残念ですが、これは歯周病の特徴や成り立ちをご存じでない方の考えです。歯周病の特殊性を見てみましょう。

感染源は体内ではない

たとえば抗生物質を飲むと、小腸から吸収されて血流に乗り全身に廻ります。一般的な感染症とは体内に潜り込んで増殖して行きますが、そこにはだいたい血流があるので、白血球や赤血球といっしょに抗生物質も流れてきます。細菌と抗生物質が接触するから効くわけです。

ところが歯周病の感染は歯周ポケットという溝の中で、体内ではありません。歯周ポケットの中には抗生物質が一部が移行しますが、血中ほど濃度が上がりません。ですから感染源を叩くことはできないのです。

抗生物質が効くのは実質骨や歯肉の部分だけ、ですから腫れている歯肉には良く効くわけです。しかしそれで腫れが引いても、感染源はそのままですから歯周病が治ったわけではありません。表面的に腫れが引いたことを治ったと思い違いしているだけなのです。

バイオフィルムというバリヤー

では抗生物質を直接歯周ポケット内に注入すれば、高濃度ですから一発完治しそうです。しかしまったくそんなことはありません。

実は細菌はバイオフィルムというヌルヌルしたバリヤー(保護膜)を作り、外部からの薬剤の侵入をブロックしています。このバイオフィルムを乗り越えない限り、いかなる薬剤も無効なのです。

身近でわかりやすいバイオフィルムと言えば、お風呂のヌメヌメです。あれはちょっと擦っただけでは落ちないですよね。だからお風呂の洗剤をつけて、スポンジでキュッキュッと音がするまで擦って…けっこう大変。これがバイオフィルムの粘着力です。

浴槽のように平坦な面でもこれだけたいへんなのですから、複雑な形をしている歯根面はもっとたいへんです。もちろんスポンジで圧力をかけて擦ることも、洗剤の漬け置きもできません。

バイオフィルムは歯周ポケット以外にも腸管や尿管にもでき、抗生物質がとても効きにくいことが知られています。

歯周病が薬で治るという方法は

では今ある歯周病に効くと言われている薬の効能を見て行きましょう。

うがい薬

テレビで頻繁に宣伝しているうがい薬の効果を、あなたは信用しますか?派手な演出でいかにも歯周病に効くような感じですが、そう、ほとんど意味がありません。

うがいですから効くのは唾液中に浮遊している細菌であり、歯周病原菌ではありません。もちろん歯周ポケット内に流入することはありません。

強力な清涼感に騙されないよう、綺麗になったような雰囲気を楽しむためのものと割り切って使いましょう。

歯磨き剤

うがい薬よりは歯周ポケット内に入っていくような感じがしますが、もちろん薬がバイオフィルムを乗り越えるわけではありません。歯周ポケットの深いところにある感染源はそのままです。

もちろん歯ブラシとの併用ですので、浅い部分のプラークを落とす事で深い部分の感染源の組成が変わり、歯周病は軽快に向かいます。

歯周病治療の基本は歯ブラシの当たりですので、最初は鏡で口のなかを見ながら確認しながら行う必要があります。この時歯磨き剤の泡立ちや溢れる唾液のせいで、しっかり磨く事が出来なくなってしまいます。このような事から、私たちは歯磨き剤はつけずに練習することをお勧めしています。

歯磨き剤の薬効は感染源には届きませんが、理論的には歯肉には効果があります。ビタミンCマグネシウム配合のものは何かしらのメリットがあることになります。

抗生物質の内服

アジスロマイシン

歯周内科と称し、アジスロマイシン(ジスロマック)という抗生物質の服用を勧める先生がおられます。

アジスロマイシンは歯肉や歯周ポケット内への移行に優れているのですが、上記で書いたようにバイオフィルムのバリヤを突き破るような効果まではありません。

抗生物質は腫れてしまった歯肉を一時的に元に戻す事はできますが、それは歯肉に潜り込んだ細菌に効いているだけで、感染源(毒素の発進基地)であるバイオフィルム内の細菌に効いているわけではありません。

抗生物質の内服は、腸内細菌叢の破壊と耐性菌の出現という大きなリスクを抱えています。安易な処方は厳禁で、緊急の時などに限ってお使いいただく事をお勧めします。日本は抗生物質の使用頻度が突出して高い国ということを覚えておいてください。

ただしAa菌と呼ばれる、若い人に急激に進行する特殊な菌には有効な場合があります。この場合は事前に細菌検査を行い、無駄な抗生物質で腸内細菌叢の破壊を避ける必要があります。

抗生物質・抗菌剤の外用

外用とは皮膚に対して塗る薬のことを意味しますが、歯周ポケットも体の外側ですので、注入するタイプの抗生物質軟膏も外用薬と言います。

外用薬はテトラサイクリンと呼ばれる黄色い抗生物質が歯周病の基本的な治療が終わった後でよく使われ、健康保険も適用されます。耐性菌出現の問題があるために使用回数に制限があります。

歯周ポケット内に高濃度に薬が入りますが、やはりバイオフィルム内に入っていく事はなく、効果は限定的です。

しかしあらかじめ超音波でバイオフィルム破壊することで、効果をあげることができます。クロルヘキシジンやイソジンなどの抗菌剤を、超音波とともに使うと効果的です。ただし深くなりすぎた歯周ポケットの中には入って行きませんので、あまり期待をしすぎないようにしましょう。

超音波で歯周ポケット内を洗浄しているビデオは、以下のサイトをご覧ください、

抗真菌剤の内服・外用

抗真菌剤とは、カンジダなどの真菌(カビ)に効く抗生物質のことです。カンジダは歯周病の原因菌ではありませんが、歯周病原菌と同居していると除菌が難しくなると考えている人がおり、エビデンス(科学的根拠)はないものの私はこの意見に概ね賛成しています。

しかし抗真菌剤を無差別に最初から適用しようという考え方には、副作用の観点からも反対です。必ずPCR法という細菌検査(ペリオアナリーズなど)で陽性となってから適用するべきです。

口の中からカンジダが検出された場合は腸管にも感染が及んでいる可能性が高いので、リーキーガット(いわゆる腸漏れ)を疑わなくてはなりません。

機能水・酸性水・塩素水

パーフェクトペリオに代表される機能水の効果について、私は否定的です。詳しくは以下をご参照ください。

ただしカンジダには有効との見解もあるので、上記と同様にPCR法や培養による検査が必要です。

エムドゲインとリグロス

歯周病で欠損した骨を再生させる目的で、エムドゲインリグロスという再生治療薬が実用化されています。両者は異なる薬ですが、目的や結果が類似しているのでここでは同一に扱います。

この再生治療薬が歯周病を治すかと言えば、だいぶ誤解があります。

ここまで紹介してきた薬は(結局効きませんが…)歯周病原菌の殺菌を目的にしていましたが、エムドゲインとリグロスはそうではなく、骨の再生を目的にしています。

うまく使えば確かに骨は部分的にですが再生させる事が可能なのですが、もちろんそれには条件があります。すべての再生療法は感染がないことが大前提ですので、エムドゲインもリグロスも使用前に感染が適切に除去されている必要があります。

事故や感染以外の原因で何かが欠損したのなら、感染はあっても軽微です。その除去は容易で、再生療法に大きな望みがあります。では歯周病はどうでしょう?

歯周病の原因は感染ですので、まず通常通り機械的にお掃除を(手作業・超音波エルビウムヤグレーザーなどで)して行くことしか方法はありません。

エムドゲインやリグロスを歯周病の特効薬であるかのように紹介する人がおられますが、決してそのようなことではなく、通常の歯周外科手術が前提で、それにプラスして使われるものです。とにかく徹底的にお掃除をしたうえでなければまったく効果がないことにご注意ください。

エムドゲインやリグロスを使わなくても感染源の除去が適切に行われれば、下の写真のように骨はある程度再生してきます。さらにエムドゲインやリグロスを使えばもっと結果が良い、ということだとお考えください。

治療前 治療後

期待できる新薬

なんか、ガッカリするような話ばかりでしたね。薬では症状を緩和することはできても、治ることはありません。しかし、現状まだ力不足でも今後期待できる薬もあるのでご紹介いたしましょう。

aPDT

aPDTとはantibacterial Photo Dynamic Therapy =抗菌的光線力学療法といって、薬を歯周ポケット内に注入してから特殊な光を照射し、薬から活性酸素を発生させることで歯周病原菌を死滅させようという方法です。解りやすく光殺菌と呼ぶ人もいますが、光が殺菌しているわけではありません。

もとは癌治療に用いられ実績のある方法ですが、薬を工夫し殺菌作用を期待するものです。

私も使っているのですが、まだ結果にムラがあり一定の評価に達していません。現状は他の方法との併用で、補助的に使う事になります。詳しくは以下のリンクをご覧ください。

しかし今後ナノテクノロジーなどを屈指してバイオフィルムに浸透する薬剤が開発されると、一気に成績が上がる可能性がある、たいへん有望な分野です。

プロバイオティクス(ロイテリなど)

今最も期待が集まるのが、口の中の細菌の組成を変えて、歯周病原菌が住みにくい環境にしようとする方法です。腸内細菌が注目されていますが、それと同じような理屈でプロバイオティクスと呼ばれる乳酸菌製剤を使う方法です。

特に注目されているのがラクトバチルス・ロイテリと呼ばれる乳酸菌の一種で、これを含む錠剤が多数発売されており、最近はロイテリ入りのヨーグルトがスーパーでも売っています。

即効性はありませんが、長い目で見て口腔内だけでなく腸内の細菌の組成が良くなる可能性が高く、免疫力の観点からも今すべての人にお勧めできる方法です。

サプリメント

サプリメント

サプリメントは食材に含まれる栄養素なので、本来は薬ではありません。しかし形は薬なので、ここではあえてその範疇に入れます。

サプリメントで歯周病が治るのかと言えば、確かにそれはできません。しかし免疫力を向上させ骨や歯肉が破壊されてゆく炎症体質を改善させる事は可能ではないかと考えられます。

たとえばビタミンDは骨に直接作用する事でよく知られていますが、実は免疫力にも大きく関与することが解ってきました。EPAやDHAなどのn-3系脂肪酸は、炎症を止める活性物質を作ります。ビタミンA.C.Eは抗酸化物質として働き、特にCは白血球の動きも加速させます。などなど…

最終的には免疫力を正常化し歯周病体質からの脱却を目指しますので、サプリメントによる栄養の適正化は長い目で見て重要と考えられます。これからエビデンスが出てくる楽しみな分野です。詳しくは以下のリンクをぜひご覧ください。

薬を使いたがる人の意外な理由

以上のように、現状では歯周病が薬で治ることは考えられません。ではなぜ治ると思わせる薬が多くあるのでしょう。それはやはり人間は楽をしたい方向になびくからだと思います。

効くと言われている薬で治療(?)されている方のお口の中を拝見すると、プラークも歯石もけっこう残存している事がとても気になります。

これは私の推測なのですが、薬物療法を勧めている歯科医院では、本来やるべき治療を省略し、安易な方向に走ってはいないでしょうか。

確かに健康保険では歯ブラシの指導をする時間はたいへん限られ、その枠内だけで患者さんがきちんと歯ブラシの能力が身につく事は考えられません。規定時間を大きくオーバーし赤字を出してでも時間をさかない限りは、患者さんに教え続けることは不可能です。そこで物販に頼る経営に傾く、これはある話だと思います。

また患者さんも、時間を犠牲にしてまでも歯磨きするよりも楽な薬で様子を見て、悪くなったらまた考えるよ…という気持ちになりやすいことでしょう。

歯周病の本質から目を逸らさない

「薬」という文字を見てみると「草かんむり+楽」と書きます。薬は人々を楽にするためにあります。それはたいへんいありがたい存在ですが、ともすると人はそれに甘え、本質を見失う原因になってしまいます。

歯周病の本質は、バイオフィルム内の歯周病原菌です。そこに喫煙・糖尿病・口呼吸・歯ぎしり・低栄養・代謝阻害があると、まず再生は不可能です。複雑に絡み合った病因を一つ一つ解きほぐし解決に導くには、健康保険の枠にとらわれない幅広い知識の上にある中立的な意見に耳を傾ける必要があります。

そのために、私たちはまず顕微鏡を使って肉眼ではできないレベルの診断を行い、栄養療法を併用しながら原因の根本解決をしてゆくことが重要と考えています。下記のサイトをご参照のうえ、効率的で確実性の高い治療法を最初から選択することをお勧めいたします。

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