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インプラントはなぜ周囲炎になりやすいのでしょう

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はじめに

インプラントは、なぜ周囲炎になりやすいのでしょう?

それを理解するためには、まず《インプラント と 自分の歯》の違いを知る必要があります。 インプラント周囲炎が解れば、いかに予防が大切かもご理解いただけると思います。

そしてインプラント周囲炎が解決した時には、他の未病も治っているかもしれません。 図を用いて説明して行きましょう!

見た目は天然歯と同じですが…

自分の歯のことを天然歯と呼びます。歯医者さんに行って「天然歯が…」と言うと「おっっ!」と思われますので、ぜひ覚えておきましょう。

さて、インプラントは歯に見せかけた人工物です。当然のことながら、自分の歯とはいろいろ違います。

インプラントは、その上に人工の歯を連結して噛めるようにします。現在の技術は、それはそれは天然歯と見間違うほどの再現性を持った人工の歯を造ることができます。これを「補綴(ほてつ)する」といい、表から見える人工の歯の事を「クラウン(冠)」と呼んでいます。これは普通にムシ歯になった後でする治療に使うクラウンとまったく同じです。ですから見た目はほとんど同じです。

中央の小さく並んだ3本の白い歯が、インプラントの上に乗っているクラウン(人工の歯)。本人はこれがインプラントであるという自覚はあまりないが、内部は大きく異なるので注意してゆかなくてはなりません。

クラウンとアバットメント(芯)を外し、連結部分が見えた状態のインプラント。天然歯とは様々な部分が異なり、それがインプラント周囲炎を発症しやすくしています。

上の写真では、わざと人工物であるクラウンが解りやすい写真を用意してみました。ごらんのように、クラウンとアバットメントを外すと、こんな感じになります。問題が出始めるのは、この連結部位付近からです。

では天然歯とインプラントの中身を比較して行きましょう。

 

天然歯とインプラントの周囲の違い

天然歯の周囲

天然歯は、骨に支えられています。

しかし実は骨と直接くっついているわけではなく、上の図のように歯のセメント質という部分を介し、「歯根膜」という靭帯で繋がっています。歯根膜には血流があり、その先で歯肉と繋がっています。図の濃いピンク色がそれです。

 

天然歯の歯肉溝

歯肉とエナメル質(人工物の場合はクラウン)との間には、実は溝があります。両者はだた接触しているだけなので、開いて底まで触ることができます。この溝を歯肉溝といい、プラークが溜まりやすい所になります。ちょうど爪のアカが溜まるところと同じような構造です。

この歯肉溝の深さを測るのが「歯周ポケット測定」という、よく歯医者さんで歯肉を触ってやる検査です。炎症ががあると、ちょっと触っただけでけっこう痛いです。

歯肉溝の底では、歯肉と歯が「付着」しています。つまり強力に結合しており、剥がすことはできません。

この「歯根膜」と「付着」のアル・ナシが、天然歯とインプラントの最大の違いになります。

歯肉溝の底は、歯肉と歯根膜の両方向から血流があるので、ある程度細菌が侵入しても白血球が有効に届き、攻撃をかわす事ができます。

 

インプラントの周囲

インプラントも、骨に支えられています。

しかし天然歯と違い、歯根膜はありません。つまりインプラントは骨とダイレクトにくっついています。ちょうど木にネジを打ってあるのと同じです。

したがってインプラントと骨の間に血流はなく、酸素も栄養も免疫も、なかなか届きません。つまり感染に弱いということです。

もしくは、感染が無くても栄養供給不足で骨が吸収されてしまう可能性もあります。

 

インプラントの歯肉溝

歯肉とアバットメント(インプラントの上に接続する芯のことです)との間にも溝があります。これをインプラント周囲溝と呼ぶのですが、ここでは分かりやすく同じ歯肉溝と統一して呼ぶ事にします。こちらも天然歯と同様に、開いて触ることができます。もちろん磨きが悪ければ、プラークが溜まって行きます。

ところがインプラントの場合、歯肉溝の底は、歯における付着に相当する部分がありません。インプラントは歯肉と接触はしていても、結合はしないのです。

もうちょっと詳しく言うと、インプラントには歯のセメント質に相当する部分がありません。セメント質は骨や歯肉と結合する働きがあるのです。一方インプラントは、骨とガチガチに固まっているだけという訳です。

繰り返しになりますが、歯根膜のアル・ナシが、天然歯とインプラントの最大の違いで、そのため歯肉溝の深いところでの血流量がまったく違います。

天然歯では歯肉側と歯根膜側の二方向からの血流があるのに対し、インプラントでは歯肉側からの一方向からしか血流がありません。したがって酸素・栄養・免疫が到達しにくく、どうしても感染防御には不利になります。

 

歯肉のターンオーバー

ターンオーバーとは

ターンオーバーという言葉を、ぜひ覚えてください。

私たちの体は古い細胞を分解し、新しい細胞と入れ替わる作業を常にしています。細胞分裂でコピーが作られ、知らないうちに置きかわりが起きています。これをターンオーバーと言います。

身近なのが皮膚のアカで、これはターンオーバーで古い皮膚が剥がれたものです。

ターンオーバーは場所によって日数がまるで違います。皮膚は1ヶ月・赤血球は4ヶ月・小腸はわずか3日、そして歯肉は1~2週間と言われています。感染や刺激による破壊が起きやすい部分ほど、ターンオーバーが早く出来ています。歯肉もその典型的な場所と言えます。

ちなみにターンオーバーがまったくおきない部分が生体には2カ所あります。一つは、目の水晶体。もう一つは…これはお判りですよね、歯です。歯はターンオーバーしないので、いちど破壊されると絶対に元には戻りません。ですから歯科医院で人工物による修復や補綴を行うわけです。

天然歯周囲のターンオーバー

天然歯周囲の歯肉のターンオーバーは、実に巧妙です。

歯肉は二層に分かれているのですが、その境目から1~2週間かけて細胞が移動し、剥がれ落ちて行きます。上の図の赤い丸が細胞で、紫の矢印が移動の方向です。まるで歯肉溝内の異物を排除してゆくような感じですね。

歯肉溝内は感染の影響をとても受けやすいのですが、細菌で破壊されても軽症であれば1週間ほどで再生する計算になります。感染による破壊が生じても、徹底した歯磨きやクリーニングでそもそもの原因である感染を除去すれば、再生に転じることができるでしょう。

しかし最も大切なのは、感染させないように最初から歯ブラシができる状況にしておくことです。再生するにも限度があるからです。

  • 参考文献
    1.新編 治癒の病理 臨床の疑問に基礎が答える 下野正基 医歯薬出版
    2.インプラント周囲炎とレーザー 日本レーザー歯学会編 クインテッセンス出版

インプラント周囲のターンオーバーは天然歯の1/3

さてインプラント周囲歯肉のターンオーバーには、天然歯のそれのような仕掛けはありません。上の図のように皮膚などと同様に、単純に深いところから浅いところに向けて新しい細胞が移動するだけで、歯肉溝の深いところから異物を排除するような動きはありません。

しかもターンオーバーのスピードは、天然歯の周囲歯肉のたった1/3しかありません。つまりインプラント周囲の歯肉の回復は、天然歯のそれの3倍もの時間がかかるということです。これは単純計算で3週間以上を要することになります。これも歯根膜がないため血流が限らているからだと考えられます。

ただし健常者であれば1/3であっても許容範囲で破壊はおきず、たとえ悪化しても回復が見込めるでしょう。しかしはじめから栄養状態が悪い人であればどうでしょう?ターンオーバーはさらに遅れ、ただクリーニングをしているだけでは進行を止めることは難しいのではないでしょうか。

吉田歯科診療室が栄養医学療法に真剣に取り組んでいる理由は、まさにここにあります。

 

感染するとどうなるか

歯肉溝は、感染しやすい構造であることを説明してきました。では一旦感染が成立すると、天然歯とインプラントにはどのような差がでるのか、比較して行きましょう。

天然歯が感染した場合

歯肉溝に細菌が定着しターンオーバーが間に合わなくなると、細菌の出す毒素は歯肉や骨を破壊して行きます。

具体的には付着を剥がし、細菌防御の最前線は後退、歯肉溝は深くなります。これを特に「歯周ポケット」と呼び、歯肉溝とは区別された病的な溝が形成された状態です。

毒素は付着だけでなく骨も破壊してゆきますので、進行すると歯の周りの骨が少なくなり、歯と骨を繋ぐ歯根膜の靭帯は噛む力に負け伸びてしまいます。これが歯がグラグラするという状態で、こうなると出血や口臭もあり、ようやく歯周病に気がつく人が増えてきます。

インプラントが感染した場合

インプラント周囲も細菌感染により、天然歯のそれと同様に歯周ポケットが形成されてゆきます。しかも今まで書いてきた理由により、インプラント周囲歯肉は感染による破壊が早く進んでしまう傾向にあります。

そしてもう一点、インプラントには歯根膜がありませんから、悪化しても天然歯のように靭帯が伸びてグラグラしてくることがありません。インプラントの先端全周に3mmも骨があれば、それでもまだインプラントはガッチリくっついており、とりあえず噛むことはできます。

これを「素晴らしい!」と思っては大間違いで、グラグラしないことでかえってインプラント周囲炎の発見が遅れます。定期健診でレントゲンやCTによる診断が必らず要るのは、このような理由から来るものです。

 

なぜインプラントは歯ぎしりに弱いのか

もう一つ、インプラントが感染に弱い理由があります。それは異常な力である歯ぎしり・噛みしめに弱く、その影響を強く受けるからです。

インプラントは、真下に押す力にはとても丈夫です。しかし側方力(横からの力)には、そこまで強くはありません。

通常の食事ほどの力であれば問題ないのですが、歯ぎしり・噛みしめはガムを噛むときの4~8倍もの力が延々と繰り返し加わります。そうなるとまず、インプラントとアバットメント(芯)の接合部がわずかに開きます。そこにもし細菌がいれば、隙間に吸引されます。

歯ぎしりが一旦おさまると隙間も閉じ、細菌も排出されるかもしれません。しかしこんなことが頻繁にあれば、中にはわずかな隙間に定着して増殖する細菌もいるでしょう。細菌は毒素を作りますので、隙間が開閉するたびに毒素が放出され骨や歯肉を破壊、インプラント周囲炎を誘発します。

この接合部分がないタイプのインプラントもあるのですが、そうるすとクラウンの仕上がりが難しかったりといろいろ問題が出やすく、今主流のインプラントとは図のように接合部が骨の高さにあるものがほとんどなのです。

そしてもう一箇所、異常な力で隙間ができやすい場所があります。それがインプラントと骨の間です。いくら骨とインプラントがガチガチにくっついているとはいえ、異常な力により僅かに歪みます。つまり隙間が空くことが考えられます。

すると先ほどのインプラントとアバットメントの間と同じように細菌が吸引され、そのうちの幾つかはかは出てこないまま定着するでしょう。こちらの方がはるかにインプラント周囲炎になるリスクが上です。このような事を避けるために、定期健診での噛み合わせ調整は必須となります。

また歯ぎしり・噛みしめは、マウスピースで防止できるものではありません。マウスピースは主に圧力を分散させ力の一点集中を避けるのが目的であり、異常な力が入る現象を治しているわけではありません。

歯ぎしり・噛みしめを解消するには血糖値を安定させ、特に夜間にアドレナリンやコルチゾールなどの興奮系ホルモンが異常分泌しないよう、糖質制限を徹底する必要性が指摘されています。

栄養医学療法は、先の感染防御やターンオーバーの正常化のためという役割に加え、破壊的で異常な力の排除のためにも必要になってきます。

なお天然歯におていは、もちろんアバットメントはありませんので隙間の問題はありません。また歯と骨の間には歯根膜があるので、側方力が加わっても歯と骨の間に細菌が吸引されることはありません。やはり天然歯って、イイものです。

 

ターンオーバーの正常化を

インプラントのネガティブな部分ばかり取り上げてしまって、ガッカリされた方もいるかもしれません。

しかし間違ってほしくないのは、ターンオーバーが正常に行われるだけの栄養が供給されていれば、インプラント周囲炎は発生しないということです。

また細菌感染で骨が炎症をおこすのではなく、ターンオーバーの遅れで骨が欠損し、後で細菌感染してくるパターンも考えられ、一筋縄では行きません。

ではインプラントでない方法、すなわちブリッジや入れ歯なら安全かと言えば、それはそれでまた問題点があるわけです。

物事は何でも、100%良いという事などあるはずありません。必ず欠点があります。その利点と欠点をよく理解し、良い部分に感謝しつつ、悪い部分を補う工夫をするべきだと思うのです。

しかし特にインプラントはその知識がまったく普及せず、モノとしてのインプラントだけが普及してしまいました。利点欠点がうやむやな状況は今も変わりません。

さらに患者さんの中には、自分自身のことでありながら医者や薬に健康を丸投げしてしまう人が、特に日本には多いと思います。これは健康保険があまりに面倒見が良すぎた反動だと考えています。ですからインプラント治療を保健医療の延長で考えてはいけないのです。吉田歯科診療室が健康保険を使わない自由診療専門である理由はここにもあります。

一度インプラント周囲炎になると、その解決はなかなか難しいものです。かと言って、苦労して組み上げたインプラントを簡単に撤去してしまうのも忍びないことです。なんとか炎症を解決し、延命を図れないでしょうか。私たちはそんな思いから、顕微鏡やレーザーを用いて、インプラント周囲炎の解決から再生まで取り組んでいます

しかし、細胞に適切な栄養が供給され、ターンオーバーが正常化するには、食事や生活習慣を見直し、一時的にでもサプリメントや点滴で栄養を治療目的に投与する必要があります。また栄養の消化吸収を阻害する胃腸疾患の解消やストレスメネジメントは、補給以上に重要です。もちろん喫煙は論外です。

インプラント周囲炎はチャンス

インプラント周囲炎になってしまったのは残念ですが、これをライフスタイル改善の一大チャンスと思うことが重要です。インプラント周囲炎が解決するくらいの栄養状態に戻せれば、すでに他の未病は解決している可能性がとても高いからです。

病は神が与えたチャンスであると言った人がいます。物事は考えようです。インプラント周囲炎は命に関わるような重大な疾患ではありません。手遅れであっても、入れ歯に置き換えれば良いではありませんか。

自分自身に起きた事を学ぶ、それは新たなチャンスが開けることに繋がるのではないでしょうか。マイナスに考えず、今までの自分を反省し、医療のあり方も考え直してみることです。それがあなたの未来にとって、大きな財産になるのです。

そしてもしよろしければ、僅かでも望みを持ってちゃんとした審査診断を受けてみてください。まず今の自分の状態を知る、どうするかはその後でゆっくり考えればよいでしょう。

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