はじめに
コンポジットレジンを使ったムシ歯治療が、どんどん進化しています。
コンポジットレジンの物性が大幅に上がっていることと、詰めるテクニックに様々な改良が加えられたことで、従来不可能だった複雑な形態にも対応でき、見た目も美くしい修復が一回の治療で完成します。これは患者さんにとって大きなメリットですね。
最新のコンポジットレジン修復について書いてみます。
コンポジットレジン修復の進化
上の写真がコンポジットレジンを用いた治療の一例です。プロが見ればどこが修復した場所なのかは判るかもしれませんが、一般の方にはまったく判らないことでしょう。
しかし下の写真と比べれば一目瞭然。金属を撤去し、コンポジットレジンをお口の中で直接盛りつけて、造形しました。コンポジットレジンを用いたムシ歯治療は、ここまで進化しています。
最近ではこれを「ダイレクトボンディング」と呼ぶ人が増えています。コンポジットレジンを直接くっつけるので、そう呼ぶようですが、やっている事は従来から言うコンポジットレジン修復と何ら変わりません。
金属で修復することを頭ごなしに悪い治療と言う人がけっこういるのですが、それはどれだけ丁寧に造ったかどうかで差がでるもので、金属製は何も悪い治療ではありません。
悪い事を言う人は、丁寧につくった金属製の修復ををご存知ないかたと思います。健康保険の規格内では困難だという事なのでしょう。
しかしいかんせん、金属の見た目の不自然さはどうしようもありません。
最低限必要なラバーダム
このような治療には、ラバーダムというゴムシートで歯を隔離することが絶対条件になります。手間もコストもかかるのですが、ラバーダムには以下のような大きなメリットがあります。
- 視野の確保 ラバーダムにより口が拡げられ患部がよく見えるようになります。
- 辺縁の露出 ラバーダムにより歯肉を押し下げることで「削りシロ」がきれいに露出、これでコンポジットレジンを正確に詰めることができます。
- 出血の防止 往々にして歯肉からは出血などが上がってきますので、何もしなければ汚染され接着力が落ちます。ラバーダムは歯を隔離しますので、そのような事はおきません。
- 防湿 もちろん唾液からの汚染も回避されます。また湿度も外気と同じになりますので、接着力が上がります。
丁寧な治療とは
丁寧な治療とは、ラバーダムを使うことだけではありません。上のビデオにあるように細かなテクニックを屈指し、接着力を最大にする工夫や、色・形への配慮の限りを尽くします。
歯とコンポジットレジンには境目がありますが、そこにできるだけ段差がなく、適合の良いものを入れれば、予後は格段にアップします。
ちょっと前まではこのような歯と歯の間にあるムシ歯の修復はうまくできなかったのですが、このようにして造形ができる時代になっています。
また噛みあわせ面の溝も実に自然で、自分の歯と区別ができないくらいにまで再現することができるのです。
以下に、丁寧なコンポジットレジンによる修復の要点をまとめてみます。ビデオを参照して、どの部分がそれなのか探してみましょう。
- ラバーダムをする
- 顕微鏡を使う
- 金属を除去するときは歯を削りすぎないようにする
- う蝕検知液を使い、ムシ歯の取り残しがないようにする
- 隣の歯を傷つけないようにする
- 歯の清掃を徹底する
- 削りシロにギザギザがないようなだらかな線にする
- 隔壁の適合を確認する
- 光重合を確実にする
- 隣の歯との接触を良好にする
- 噛みあわせ面の色と形態が自然
- 上下の歯の噛みあわせが良好
- 歯とコンポジットレジンに段差や過不足がない
- きれいに研磨されている
- 治療行程のビデオをお見せし報告する
コンポジットレジン修復の利点・弱点
このような最新のコンポジットレジン修復には、それなりに時間も材料代もかかり、健康保険の予算内では実現しません。
しかし大きく削ってインレーにしたり、また同じコンポジットレジンを使うにしても短時間で、しかも歯科医師でないスタッフが詰めるような治療と比べたらどうでしょう?そのメリットは価格以上のものがあるのではないでしょうか。
コンポジットレジン修復はインレーに比べて、健康な歯を削ることが少ないという大きなメリットがあります。
もちろん弱点もあり、
- 全ての行程を口の中で行うために、口を開けている時間が長い
- 正確な噛みあわせの再現が難しい
- 歯肉より深く入ったムシ歯では隔壁がセットできないためできない
- 咬頭(噛みあわせ面の山)の修復には強度不足
などがあります。これらに該当する場合は、すなおにインレーなど別な方法に変更する必要があります。
特に治療中に上記3が発覚することはよくありますので、治療時には必ず予定変更を念頭におき、それによる金額や治療時間の変更を考慮する必要があります。
それからコンポジットレジンは確かに1日で終わる治療ですが、後日最終研磨と噛みあわせバランスのチェックが必要です。1日で終わると手放しで喜ぶのは早計なので、気をつけましょう。
コンポジットレジンの適応は、ずいぶん増えてきました。初期〜中期のムシ歯治療の第一選択肢として、ますます増えていくことでしょう。