インプラントの周囲が腫れてくる「インプラント周囲炎」。この治療方法は、まだ試行錯誤の段階で確立されていません。また治療するにしても煩雑になり、積極的な治療はされずに放置されている場合がほとんどです。
実際多くの歯科医師に聞くと、まめに洗浄を繰り返すのがやっと…ということが多く、最初から諦められてしまうこともあるようです。
確かにインプラント周囲炎の治療は、できる限りのことをやりきることがベストとしか言えません。しかし本当に積極的に治療をするべきなのか、いろいろな考え方がありますし、患者さんの希望もあります。
インプラント周囲炎が発見された後はどのようなバリエーションがあるのか、現時点での私の考えをまとめます。
経過観察
消極策ですが、歯ブラシの練習だけはしておいて、あとは何もせず様子を見ましょうというものです。
しかし持続する軽い慢性炎症といえども、体に大きな負担をかけます。代表的なのが、トリプトファンというアミノ酸からセロトニンという睡眠誘発ホルモンを産生する能力が低下し、睡眠の質が低下しやすいことです。またキノリン酸という神経毒性のある物質を産生しやすくなります。鉄の吸収や代謝も抑制されます。これれらが長期間続くことは、日常のパフォーマンス低下に大きな影響を及ぼします。
患者さんが特別忙しいとか、よほど特殊な理由がなければ選んてはいけません。もちろん放置は論外です。
毎月一回の洗浄
一般的な歯のメンテナンスと同じく、毎月一回洗浄や研磨をかけましょうというものです。もちろん通常の歯周治療と同様の検査や歯ブラシ指導などが行われてからになります。
普通の歯ブラシを使っても、歯科衛生士からやってもらうと、まったく当たりが違うことに気がつくでしょう。これを最初から続けていられれば、インプラント周囲炎は避けられた可能性は高いはずです。よく言われるメンテナンス不足です。
洗浄はインプラント周囲の骨の吸収が大きく、ポケットが深い場合は器具が届きにくくなり、効果は限定的です。それでも何もしないよりはるかに細菌数は減らすことができるでしょう。
洗浄にあたっては、インプラントの上部構造(冠・アバットメントと呼ばれる芯)を外してから行う場合と、そのままの状態で行う場合があります。状況によっては超音波洗浄を加えることもあります。
効果の判定には細菌検査が有効であり、治療間隔の決定や、下でご説明するデブライドメントに移行するかどうかを判断します。
なお施術は専任の常勤歯科衛生士が担当いたします。
上部構造装着のまま
上部構造を外さないので、普通の歯のメンテナンスと同様な施術になります。短時間で終了いたしますが、その分不完全になりやすくなります。
上部構造撤去〜再着
上部構造を一旦撤去してから洗浄を行います。撤去した上部構造は超音波洗浄をかけ、ただちに元に戻します。
インプラント本体への洗浄器具が到達する範囲が増え、有効度が上がります。
もちろん撤去から再装着に要する手間と時間がかかります。
なおアバットメントが撤去できないタイプのインプラントもあり、その場合は上記と同様の施術となります。
非切開デブライドメント
デブライドメントとは除菌を目的とした、洗浄よりさらに徹底したクリー二ングとお考ください。
上記の洗浄は麻酔まではしませんが、デブライドメントはさらに器具の到達性をあげるために麻酔が必要です。歯肉は切らず(非切開)器具で歯肉を広げ、顕微鏡で狭い範囲を拡大しながら施術いたします(麻酔を使わなくてもできる場合もあります)。
使用器具は、超音波・グリシンパウダー・エルビウムヤグレーザー・PDTなどで、歯科医師が施術いたします。
グリシンパウダーの噴射装置
エルビウムヤグレーザー(写真右下)
なお参考例は以下をごらんください。
オープン フラップ デブライドメント
非切開では届く範囲が限られる場合、麻酔をして歯周病手術と同様に歯肉を開き、インプラント体を露出させて行います。これをオープン フラップと言います。
これにより器具の到達性は最大となり、インプラント体の溝などに定着した細菌やバイオフィルムを徹底的に除去します。
使用器具は上記に加え、β-TCPパウダー・チタンブラシなどを用います。
デブライドメントが完了したら、骨を移植するかどうかに分かれます。
β-TCPパウダーと、その噴射装置
骨移植なし
デブライドメントが完了したら、そのまま歯肉を戻して縫合します。骨の再生は若干期待できますが、深いポケットは残ったままですのであまりお勧めしておりません。
骨移植あり
デブライドメント完了後に、露出インプラント体の周りに骨を移植します。移植用の骨は口の中の適切な部分から採取いたします。
移植骨には再生を加速させるために、エムドゲインやPRP(多血小板血漿)が併用されます。
完了後は冠とアバットメントは戻さず、後日の再装着をお勧めしております。
また施術にあたっては感染予防と治癒促進のために、高濃度ビタミンC点滴25gの併用を強くお勧めしております。
なお将来優秀な人工材料が出てきた場合は、骨の替わりにそれを使用することになるでしょう。
インプラントの撤去
すでに汚染されてしまったインプラント体のデブライドメントは、いかに上記を徹底してもやはり難しく、骨の再生も不確実です。
そのため本当に確実性を上げるには、残念ですがインプラント体を撤去することです。感染源はインプラント体に付着していますので、それを徹底すれば感染も同時になくなります。骨の吸収量が多すぎる場合は、積極的に考えなくてはならない方法です。
また撤去した後の事もしっかり考えてなくてはなりません。
撤去して骨移植し後日再インプラント埋入
インプラント体が深く入っている場合、撤去は少々たいへんです。撤去後の骨の欠損もそこそこになりますので、後日もう一度インプラントを行う場合は、撤去と同時に骨移植を行います。後で行うよりも楽に確実に骨を作ることができます。
撤去して入れ歯・ブリッジ
撤去後にまたインプラントにするのはたいへんなので、諦めて入れ歯やブリッジにしようという道を選ぶこともあります。この場合は特に骨を移植する必要はありません。
撤去後に食事が不便であるならば、傷の治りを見てできるだけ早く仮の入れ歯などを造ってもらうようにしましょう。
栄養療法の併用
すべての施術法に共通する重要なオプションが、栄養療法(オーソモレキュラ療法)の併用です。
インプラント周囲骨は、ご自身の歯の周りの骨よりも血流が劣るため、骨の再生には不利な条件です。したがって全身の代謝・免疫・再生力をできるだけ「本来あるべき状態」に戻す事が、再生の鍵となります。
再生力が弱かった場合は何をやっても細菌に再び増殖するチャンスを与えてしまい、移植した骨もまた吸収してしまうでしょう。これをもってして骨移植は無効と考えることもでき、負担が少ない洗浄を繰り返すだけで良いと考えることもできます。
これはなかなか難しい問題ですが、さらに詳しくは姉妹サイトDentalNutrition.jpをご参照ください。
もともと栄養状態が良ければ、インプラント周囲炎はかなり防止できるのではないか、私達はそう考えています。
積極策・消極策といろいろなバリエーションを挙げてみましたが、どれを選ぶかは医学的な判断と患者さんの希望で変わってまいります。
しかしいかなる理由があっても必ずゴールを設定し、無目的に漫然とすごさないことが大切です。いずれにせよ長い目でみて、月に一度の洗浄と栄養療法はぜひとも実行していただきたいです。
病気にはすべて原因があります。なぜインプラント周囲炎が発症したのかを考え、そこからできるだけ遠ざかる生活習慣をいっしょに考え実行して行きましょう。
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