はじめに
歯医者さんで言われた通りちゃんと歯ブラシをしているし、クリーニングにも通っているのに、歯周病が良くならない… そんな悩みの方が増えています。
理由の一つに、健康保険制度の限界があります。では保険を使わなければ、良い結果が得られるのでしょうか?そんなことはありません。今主流の歯周病治療には、何か重大な見落としはなかったでしょうか?
体の外側と内側からの両方のアプローチする、私たちが推進する新しい歯周病治療について書いてみます。
一般的な歯周病の原因とは
歯周病の成り立ちはだいぶ解明されてきました。基本的には細菌感染であり、そこに喫煙や糖尿病が重なると、さらに結果が悪くなることも知られています。
さらにハギシリがあると回復するための安静時間がなくなり、破壊を止めることができなくなります。
こちらでご説明したように一般的には、歯周病の治療は以下のように進められていきます。
1・徹底した歯ブラシ指導
2・徹底した歯石除去と歯面の研磨
3・炎症歯肉の掻爬
4・動揺歯(ぐらぐらした歯)の固定
5・合っていない冠の除去、交換
6・噛み合わせのバランス調整
7・歯肉,骨の形態修正
8・抗生物質の投与
さらにここに、禁煙指導と、糖尿病治療を内科に依頼することが加わります。また状況に応じて、骨の再生治療が行われることもあります。
しかしそれでも進行が止めらない、すなわち炎症が収まらず骨の回復がない患者さんが多いのはなぜでしょう?努力が足りないのでしょうか?
意外に多い見落とし
歯周病は、そもそもの原因である細菌の量が減れば感染力は弱まり、骨や歯肉は破壊から回復に転じます。一旦失われた骨や歯肉が完全に復活するわけではありませんが、途中まででも戻り歯がグラグラしていなければ、噛むことに支障はありません。
ですから歯周病治療において、歯周ポケットの中の感染源を徹底的にお掃除することは、最も重要で基本的なことです。
したがって患者さんには、指示通りに毎日きちんと磨いていただくことが最も重要になります。
ところが100%自力で磨ききれる人はおられません。磨き残しは必ずあります。28本の歯の周り360度を、すべてきれいな状態にコントロールすることは、誰が考えても困難なことです。
そこで歯周病治療に熱心な歯科医院では、歯磨きを補助するために歯科衛生士によるクリーニングが行われます。これをPMTC*とかSPT**などと呼んでいます。
しかし、クリーニングにより原因である細菌はかなり減らすことはできるとはいえ、ゼロにすることはできません。
また重症で歯周ポケットが深くなればなるほど器具は到達せず、クリーニングは不確実になります。歯周ポケットの中をくまなくクリーニングすることは、実はとても困難なのです。
漫然と磨いたり超音波洗浄をしているだけでは、重症な患者さんほど効果が現れにくくなってしまいます。したがって、もっと器具の到達率を上げ、クリーニングの確実性を上げる工夫をしなくてはなりません。
実はその方法があるのですが、その前にもう一つの原因のお話をしなくてはなりません。
* PMTC=Professional Mechanical Tooth Cleaning 専門家(歯科衛生士)による歯の機械的清掃
** SPT=Supportive Periodontal Therapy 歯周病援助療法
見逃されている大きな原因
歯石やプラークをとり、歯周ポケットを浅くすれば、細菌は減り感染力は衰えます。その結果、破壊から回復に転じればよいのですが、その程度は人により異なります。
簡単な治療で回復傾向にある人もいれば、クリーニングを徹底しているにも関わらず、残り少ない細菌の影響をなおも受け続け、悪化してしまう方もおられます。この差は何なのでしょうか?
一つは細菌の種類にあります。やはりたちの悪い細菌はいるものです。それから遺伝の問題は無視できません。これらに関してはまた別に書きたいと思います。さてそれらよりも、もっと大切なことがあります。
それは回復力の差です。歯周病は細菌感染ですので、細菌に打ち勝つ力が必要ということです。しかし今主流の歯周病治療には、そのような発想はありません。
私たちは多くの患者さんの血液検査データーなどから栄養状態を把握していますが、すべての方になんらかの栄養の過不足があります。生命維持に不可欠なタンパク質・脂質・ビタミン・鉄や亜鉛などのミネラル・繊維質がかなり不足している一方、炭水化物だけは過剰です。これが現代型の栄養失調です。食べ物の量はとれてますが、質が悪すぎるのです。
その結果、回復にまでもって行けるエネルギーが不足するだけでなく、多すぎる炭水化物の影響で血糖値の乱高下がおきます。これがハギシリを誘発し、回復に必要な安静時間まで奪われてしまいます。
また社会的ストレスの影響を強く受けており、持続する精神疲労により活性酸素が大量に発生し、その消去に各栄養素が消費され続けています。これでは細菌を攻撃したり、骨や歯肉を回復させるだけのスピードが確保できません。スピードが遅いということは、細菌に付け入る隙を与えているということです。
努力をしても結果が伴わない患者さんは、早急に栄養状態を確認する必要があります。
外側から 顕微鏡による精密な原因除去
しかし何はともあれ、クリーニングは徹底させなくてはなりません。それには一つ良い方法があります。顕微鏡でよく歯を見ながら、行うことです。
一般的なクリー二ングは、肉眼で勘を頼りに行われます。見えないことに、何も疑問を持たないで行われるのが普通です。
しかし顕微鏡を使って拡大して見てみると、これでは取り残しがあまりにも多いことが誰にでも判ります。顕微鏡を見ながらのクリーニングはたいへん効果があるのですが熟練が必要であり、顕微鏡があるからといってすぐに良い治療ができるわけではありません。
ただ拡大して見るだけなら、メガネ型の拡大鏡(ルーペ)や、ペン型の口腔内カメラでも可能です。しかし顕微鏡は深くて狭い所まで照明を入れることができるので、見え方がまったく違います。また顕微鏡を使うと、通常見ることができない方向からも見て治療器具を入れることができるようになります。
さらに、私たちのところでは歯科衛生士も顕微鏡の訓練を受け常用していますので、あらゆる局面でクリーニングを徹底できる状態で患者さんをお待ちしています。
なおクリーニングにはエルビウムヤグレーザーという機械を併用し、徹底的な除菌を行います。以下のリンクはインプラント周囲炎治療に応用しているところで、顕微鏡からの撮影したものです。
内側から 栄養療法による回復力の正常化
どんなにクリーニングを徹底させても、細菌はゼロにはなりません。クリーニングで一旦減った細菌がまた増えないよう、あらかじめ免疫力や回復力を正常化しておく必要があります。それには栄養の適正化が絶対条件です。
しかし現代医療は、あなたは毎日問題ない食事をしており栄養は十分摂れていることを前提に進められています。それが大きな見落としです。ほぼすべての人がタンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルの不足、糖質過多が診られるのです。それを是正し病気を治そうというのが栄養療法(分子栄養学・オーソモレキュラ)で、すでに内科・皮膚科・心療内科で実績をあげています。私たちはこれを歯科口腔外科へ応用し、歯周病やインプラント周囲炎を解決へ導こうとしています。
また一般的に、栄養は必要なものを食べたりサプリメントで補給すれば間に合うと思われていますが、実は栄養の吸収や利用を阻害するものがたくさんあります。それが水銀・鉛などの重金属、ピロリ菌、カンジダなどで、その対策を同時に行わなくてはなりません。これも一般に知られていることではありません。
歯周病を栄養の適正化で治療を行うことは、実績としてまだぜんぜんたりていませんが、理論上はたいへん効果がある事がわかっています。
たとえば治療中にビタミンCを応用することで、傷の治りを加速させたり、抗生物質を減らしたり、疲労を軽減させることが可能です。
栄養療法により歯周病が改善するだけでなく、疲労や不定愁訴が同時に解決する可能性も高く、私たちは今後さらに栄養療法を推進し、実現困難だった病気に対処していこうと日々研鑽しています。
なお栄養療法に関してさらに詳しい情報は、以下の姉妹サイトDentalNutrition.jpをご覧ください。
また栄養療法は内科・皮膚科・心療内科などではかなりの実績をあげていますが、歯科・口腔外科ではまったく新しい分野になります。とうぜんまだ実績に乏しいのが現実です。
しかし私たちはこの二つを併用することで、今まで改善が難しかった重症の歯周病に、さらにはインプラント周囲炎の改善は十分可能と考えています。歯周病・インプラント周囲炎でお困りのかた、積極的な維持管理を進めたいかた、ぜひご検討ください。
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