歯の短期集中治療とは|「忙しい」を理由にしない通院の新常識

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歯の短期集中治療を前面に出した歯科医院の広告をよく見かけるようになりました。広範囲の歯科治療は時間がかかりますので、それが本当ならありがたい話ですが、もちろんそこには注意点がたくさんあります。技術革新により大幅な時短ができるようになった治療もあり、そこは上手に使って行きたいものですが、絶対に時短や省略してはいけない事についてはほぼ周知されていません。上手い話に乗せられないよう、これから短期集中治療を受けたいと考えている方のために、私が行なっている方法も交えて解説します。

この記事で判ること

短期集中治療は自由診療の得意分野

「できるだけ少ない通院回数で歯の治療を終えたい」と考える方が増えています。特に、経営者・医師・出張や会食の多い方・人前に出る機会が多い方・管楽器演奏者・急に海外赴任が決まった方・子育てや介護で自由な時間が限られている方にとって、何回もの通院日を確保することは大きな負担です。

そこで短期集中できればという事になるのですが、残念ながら健康保険には守らなくてはならない順番や期間があり、それを無視した方法は医学的に正しくても実行できません。したがって短期集中治療とはほとんどの場合、自由診療となります。逆に見れば、短期集中治療は自由診療の得意分野です。

短期集中治療に向いている人・向いてない人

もちろんどんな症状の人でも短期集中治療ができるわけではありません。どうしても時間をかけなくてはならない治療もたくさんありますので、先にそれを整理します。

短期集中治療に向いている人

  • 一本ずつの歯に対する以下の治療
    • コンポジットレジン修復
    • CAD/CAMによる人工歯の作成〜装着
    • 感染が限局している歯の根管治療(歯内治療)
  • 単純な欠損に対するブリッジによる修復
  • 全身状態や顎骨形態に問題のないインプラント治療

以上のように、単純な形態回復だけであれば、非常にスピーディーな治療が可能です。

短期集中治療に向いてない人

一方、形態回復だけでは済まない場合は、短期集中治療はお断りしなくてはなりません。患者さんが考えている状態よりも原因が根深い事が多いので、それを無視した治療は短期間のうちに再治療になることがほとんどなので、注意しましょう。

  • 歯周病治療を優先しなくてはならないとき
  • 噛み合わせバランスや顎の関節に問題があるとき
  • 歯磨きに理解がない方
  • 感染が進み過ぎて使えるかどうか判断に時間を要す歯
  • 冒険的な治療
  • 骨や歯肉の回復期間を見込まなくてならない場合
  • 広範囲で複雑な治療
  • 治療変更に伴う時間変更を許容できない場合

何かを省略して急ぐ治療に注意

セラミック矯正には細心の注意を

人前に出る機会が多い仕事の方には、見た目だけを短期間で完了させる「セラミック矯正」が人気です。

ここで重要なのは、短期集中治療は決して「何かを省略して急いで終わらせる治療」ではないことです。しかし現実的にはそのような事を行っている所もあるので、区別しなくてはなりません。

特に前歯をすべて人工の歯に置き換えるセラミック矯正は、近年医科で問題になっている「直美(チョクビ)」問題と共通した稚拙な治療が目立っているので、特に注意が必要です。

セラミック矯正は健康な歯を大きく削り、神経を除去することも多いため、将来的に問題が露呈する可能性が高いのが実情です。そのため再治療の相談が多いのも特徴です。

セラミック矯正は目的に対する犠牲量か多すぎるのですが、正しく行い管理ができていれば決して予後が悪い治療方法ではありません。詳しくは以下もご参照ください。

短期集中のトレードオフも考慮

治療は一本の歯だけで完結することもあるのですが、通常は複数歯にまたがったり、先に歯周病の改善をはからないといけない場合は、短縮することが難しくなります。歯周病治療は細胞が回復する期間が必要になることと、結果が患者さんの個性や協力度に大きく左右され、先が読みにくいからです。

しかし困ったことに、「見た目だけすぐに良くして!」「痛みだけ取れればいい」「とりあえず噛めればいいから」といった要求をされる患者さんも少なくありません。

本当に時間がなければ「それだけ」になってしまい、その後必ず問題が表面化し、結局時間もコストもかかります。これでは何のための短期集中治療なのか、本末転倒になってしまいます。

「とりあえず…」という治療には、短期集中治療は本来向かないのですが、どうしてもという方はトレードオフも考慮しなくてはなりません。

短期集中治療の実際

では歯の短期集中治療とは、どのようにして実現するかについてまとめます。

一回の治療時間は2時間程度に

治療期間を短くすると言っても、それは何かを省略するという話ではありません。もちろん手を動かすスピードを2倍速にする事もできません。

また一回の治療時間を長くとるにしても、患者さんは口を何時間も開けている事は不可能ですし、最新のチェア(治療用の椅子)は寝心地が良くなったとは言え、ほぼ同じ姿勢で寝て待っているのは厳しいものです。

もちろん口を開けっぱなしにしている必要がない治療もたくさんありますが、一回の治療時間は長くとも3時間まで、現実的には2時間程度と考えておいた方が無難です。ただしこれを午前も午後もとか、連日にすることで、総治療期間の短縮をはかる事は十分可能です。またスタッフが揃っていれば早朝・深夜・休日を利用することもできます。

当然治療の規模やご要望により期間はまったく異なるので、最初からゴールを決めておくことは重要になります。

来院前にオンライン診療で準備をする

自由診療には様々なオプションがあるので、治療方法や選択肢が複数あるものです。治療期間を短縮するには、その意思決定を早くし迷う時間を最少にする必要があります。

そのためには実際にご来院いただく前に、お手持ちの口の中の写真・レントゲン・ご希望などを整理した書面をご送付いただき、それを元にオンラインでお話を済ませておく事をお勧めいたします。

また治療をスムースに行うためには、治療前に歯が丁寧に磨けていなくてはなりません。先にそれについて解説した動画がありますので以下をご参照いただき、こちらもオンラインで歯科衛生士と歯ブラシの動かしたかを練習しておくのが最善です。

以上により診療室での説明や相談時間をできるだけ少なくすることができます。

短期集中治療で避けるべき「冒険的な歯科治療」

私を含めて歯科医師には「難しい治療にチャレンジして成果を出したい」という気持ちが強くあります。

「この歯は残す事ができるか?」というギリギリの歯に対し、あらゆる手を尽くして使える歯に復元する事はたいへん価値があることです。しかしその判断にはある程度の時間が必要、したがって必然的に短期集中治療には向かないことになります。

「うまく行くかどうかはやってみなければ判らない」「残すことにリスクがある」という歯に対しては無理な保存はせず、安定した状況を作るために積極的に抜歯するという選択も時には重要になります。不確定要素は最少にする必要があるということです。

また短期集中治療は単にチェアに座っている時間を減らすだけではく、「迷う時間」と「やり直す時間」をゼロにする必要があります。したがって様子見期間をとる必要のある冒険的な治療は諦めなくてはなりません。

予定変更に対応できるマルチな歯科医師を選ぶ

これは意外に重要なことですが、一人であらゆる治療をこなせるマルチな歯科医師を選ぶことは、短期集中治療を成功させるために必須です。

最近は専門医制といって、歯科の中でも特に専門性が高い根管治療・矯正・インプラント手術などで担当医が変わる、すなわち分業制にするところが増えています。一見良さそうな仕組みに思えるかもしれませんが、複数の歯科医師が入れ替わりで担当するとなると、治療スピードは大きく低下します。

歯科治療は「やってみなければ判らない」要素がひじょうに多く、治療を進めて行くにつれ予定が変更になることは日常茶飯です。その度に専門医の先生にバトンタッチするとなれば、また数日を要することになりますし、新たなゴール(治療計画)を設定しなおす相談時間も必要です。

したがいまして、短期集中治療をするさいの歯科医師選びは、ある程度一人でなんでもできるマルチな歯科医師を選ぶことがたいへん重要になります。

時間短縮できるのは「物作り」の部分だけ

治療のうち、人工歯(冠やインレー)などを作る「物作り」の部分はデジタル技術のおかげで大幅な期間短縮が可能になっています。ただしそこには作る物の複雑さや、材料に制約も出てくるで注意が必要です。

CAD/CAMによる冠などの人工物作成の時間短縮

短期集中治療や時短を売りにしている歯科医院は、3DスキャナーやCAD/CAMといったデジタル技術を駆使し、これこそ最新最高の治療である旨広告している所が多いようです。

しかしデジタルは従来のアナログに完全に置き換わったわけではなく、まだアナログでなくてはできない事も多いので注意が必要です。

デジタルで特に問題になるのは「歯肉の中の型取りがほぼできない」ことです。詳しくは別項に譲りますが、歯肉の中は3Dスキャナーの光が届きにくいので、そのままでは寸法の足りない短い人工歯になりやすいのです。

これを解決するにはアナログとの併用や、歯肉を綺麗に整形するレーザー技術が必要です。このような不都合な事はホームページなどにはほとんど記載されていませんので、実際治療を受けるときは注意しなくてはなりません。

即日装着できる冠には材料に制限がある

3Dスキャナーで歯の形をデジタルで読み取り、そのデータを元にコンピュータ上で人工歯の形を設計し、専用の機械で人工歯を切削加工する、これがCAD/CAMという技術です。白いブロックを削って冠を作るという事です。

このブロックには多くの種類があるのですが、加工が難しい硬いものから、加工が簡単な柔らかいものまで、用途に合わせて使い分けます

健康保険では比較的柔らかいコンポジットレジンという強化プラスチック剤を使うことができます。しかし本当ならもっと強度のある美しい材料を使いたいところで、それには2種類があります。

一つ目はガラスセラミック系(二珪酸リチウム)と言って、有名な製品としてe-maxというのがあります。色が自然な歯に近く美しいのが特徴で、また口の中にセットした後の経年変化(噛んで自然に擦り減っていく度合い)が天然歯(本来の自分の歯)とほぼ同じで馴染みが良いと言われています。強度的には十分なはずなのですが、実際には歯ぎしりで破損することが多々あります。またブリッジなどの複数の歯を連結することは破損の可能性が高いのでやめた方がいいでしょう。ガラスセラミック系は3Dスキャン後、早ければ1時間程度で完成しますので、即日完成を目指す場合は選択肢の筆頭になります。

二つ目はジルコニアです。非常に硬い材料で破損のリスクはほぼありませんが、逆に噛み合う歯を擦り減らしてきたり、自分の歯本体に過大な負担をかけ破折させる危険性があります。ジルコニアはあまりに硬すぎるので加工に非常に手間がかかり、専用設備がある医院で朝に3Dスキャンしても完成は夕方以後になり、即日完成は非現実的です。ただし微妙な形や色を気にしなければ減らせる工程もあり、最新設備を用いることでガラスセラミック系並みに加工スピードを上げることができます。

以上のように材料にもいろいろありますので、予め説明を受けて選択しておきましょう。

X-GUIDEによるインプラント準備期間の短縮

X-GUIDEによるインプラント埋入手術を行っている筆者

インプラント治療は手術を伴いますので、歯肉や骨の細胞が治る時間を待つ必要があり、基本的に時短にはなりません

最近では「即時負荷」と言って、インプラントを埋入(手術で入れること)した直後に人工歯を乗せて噛ませることもできるのですが、これは骨の条件の良い複数のインプラントを仮の人工歯で連結する場合のみ可能な方法で、単独のインプラントでは噛む力で回転してしまうので行えません。

一連のインプラント治療で時短できるのは前述の人工歯作成がありますが、もう一つ、手術中にインプラントを正しい位置に埋入するために必要なガイドプレート(マウスピースみたいなもの)の作成時間の短縮が挙げられます。この作成は外注で1週間ほどかかるものですが、院内に3Dプリンターがあれば翌日には完成しているでしょう。しかしそれでも日を跨ぐことになります。

インプラントを正しい位置に埋入するにはガイドプレート以外にも、X-GUIDEというナビゲーションシステムを用いる方法もあります。詳しくは以下のリンクをご参照いただきたいのですが、これを用いることでCT撮影と3Dスキャンをして30分後には正しい位置にインプラントを埋入する準備が整います

なお、まだガイドプレートなしでインプラントを行うところもあると思いますが、まったくお勧めいたしませんので、事前に確認することをお勧めしております。

血液検査は先に済ませておく

インプラント治療などの外科手術前には、予め血液検査で全身の状態を把握しておく必要があります。検査結果が悪ければ手術ができませんので、早めに情報を入手し、問題がある場合は直ちに対策を始めなくてはなりません。

状況によってはインプラントは諦め、義歯(入れ歯)をお勧めしなくてはなりませんので、インプラントにも義歯にも対応できる歯科医師を選ばないと時短になりません

検査結果が出るまでには二週間ほどかかる項目もあるので、こちらもオンラインで先に検査項目を確認し、来院時に採血を行いましょう。

治療が終了してもメンテナンスは終了させない

短期集中治療について、思うままに列挙してみましたが、意外に多くあり長文になってしまいました💦

ということで、短期集中という耳障りの良い方法にも、実は注意点がたくさんあるということでしたね。

最後にもう一つ大切なこと、それは技術革新により人工歯は1日で入る時代になりましたが、それはただ入っただけで治療が終わったわけではないことです。

人工歯が入れば治療はそれで終わりと思いたいところですが、悪くなった原因は1日で解決するはずないので、その後のメンテナンスや調整が必要です。

自動車に車検があり、マンションに定期管理があるように、歯にも当然メンテナンスが必要です。自動車もマンションも管理ができていなければ他人に大きな迷惑がかかりますので、法律できちんと決められています。一方、歯は管理が悪くても、とりあえず自分にしか迷惑がかかりません。だから世の中的に軽んじられているわけです。

しかし管理が悪ければ周り回って社会負担増は明確となる、これを忘れないでほしいのです。

忙しくて短期集中治療を望まれる方は、どうしてもこういう部分にまで想いを馳せる余裕がないように感じます。治療が終了してもメンテナンスは終了させない、今は忙しいからしかたがなくても、時間の余裕が少しでもできたら歯のメンテナンスを再開しましょう。

いかがだったでしょう、歯の短期集中治療は技術革新により大きく前進しました。「忙しい」はもう理由にならなくなりました。以上のことに気をつけて、時間を有効に使って行きましょう!

吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニックのロゴ
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吉田 格(よしだ いたる):東京銀座の吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニック代表。歯の保存・根管治療・歯周病・インプラント・矯正などの幅広い知識と技術をワンストップで提供する自由診療専門歯科医師。レーザー・顕微鏡・栄養療法を早くから取り入れ指導的立場にあり、特にインプラント周囲炎治療に積極的に取り組んでいる。

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