神経をとった歯にクラウンを被せ終わったら 歯根破折の予防を始めましょう

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神経をとった歯にクラウン(冠)を被せたら治療はもう終わりでしょ?…あなたはそう思ってないでしょうか。確かに歯の形はきれいな人工物で復元されたので、治ったような気がします。しかしここに落とし穴が!実は神経をとった歯は、将来破折(割れること)する危険性がとても高く、それが抜歯の原因第一位なのです。この歯を何十年と使って行くためにはどうしたらよいのか、自由診療専門歯科の立場からまとめます。

歯にクラウンを被せ終わったら

歯にクラウン(冠)を被せ終わって、ひと安心!はい、ご苦労様でした!

その気持ちは分かるのますが、しかし多くの人がその後何の配慮もしなかったために、予防可能なトラブルに直面します。

トラブルとは、ムシ歯の再発と、歯の破折(割れること)です。特に後者は神経をとった歯に頻発し、抜歯になる原因の第一位です。

定期検診に行ってるからだいじょうぶと思われがちですが、実はそんな簡単ではありません。もちろん定期検診は必須ですが、歯科医院に丸投げしているだけでは予防できません。

人工の歯は神様が作ったものではありませんので、もともとあった自分の歯とはかなり違います。

この記事では、自由診療専門の歯科医院がクラウンを被せた後に何を推奨しているかを、その理由と共にご紹介します。具体的には以下の項目を、その方に合わせて選択します。

  1. 定期検診
    1. 顕微鏡を使って磨き残しのチェック
    2. 歯周病のチェック
    3. 噛み合わせバランスのチェック
    4. 苦手部位の歯ブラシ練習とクリーニング
  2. 歯ぎしり対策
    1. 自己暗示方の会得
    2. 血糖値の安定化
    3. マウスピースによる歯の保護
    4. ボトックスによる咬筋力の制限

以下、解説して行きましょう。

よくあるムシ歯治療の誤解

まずきちんと理解していただくために、ムシ歯治療について多くの方が誤解している点を整理しておきましょう。

よくある誤解
  • 被せたからもうしばらく安心だ
  • 歯磨きは今まで通りでかまわない
  • 悪くなってもまた治してもらえるはず
  • これで何でも心配なく噛める
  • 痛くなってから歯医者に行けばいい

実は歯を治すといっても、それは人工物に置き換えただけで、悪く言えばツギハギです。カゼやケガが治るのとは意味が違います。つまりムシ歯で歯が欠損したら最後、決して元通りになることはありません。だから治すとはいっても、それは人工物による「補修」という意味になります。ちなみに健康保険では、なぜかこれを「治癒」と言います。

神経をとった歯は割れやすい

実は神経をとった歯は割れやすい事を覚えておいてください。枯れ木が立っている様なものなので、水分の供給がなく脆いのです。

そこで噛む力に耐えられるよう十分な補強作業が必要で、地味ながら外見の修復以上に重要な工程になります。これを支台築造(しだいちくぞう)と言います。

破折リスクは再治療を繰り返して残っている自分の歯が薄いほど跳ね上がるのですが、これは基本的に治療している歯科医師にしかわからず、患者さんは写真や動画を見せてもらわない限り知る由がありません。もちろんクラウンがセットされてしまえば、歯科医師でも判りません。

上の動画は歯に違和感があるというのでクラウンなどの人工物を撤去したところ、歯が破折しヒビが入っているのが解ったケースです。動画の0:31からメモリがついた棒が歯肉に深く入っていく様子が映ってますが、これがヒビからの感染で炎症が進み、骨が破壊された(歯周ポケットができた)状況です。残念ですがこうなると抜歯するしか選択肢がありません。

補足

「割れた歯を一度抜歯して洗浄し、外で接着して元に戻せば(再植といいます)、歯を使い続けることが可能」という方法が紹介された時代がありましたが、歯周ポケットは残ったままだし、噛む力により短期間に再び破折するので、信頼性のない方法であると判断し私は推奨していません。

神経がない歯の補強とは

ほとんどの場合、神経をとった歯には内部に芯を入れ、その上からクラウン(冠・被せ物)を被せて外見を復元をします。これらの工程を補綴(ほてつ)と言います。

内部からの補強は、現在はグラスファイバー製の芯とコンポジットレジン(樹脂剤)の併用が多く、前歯では歯が折れる力に抵抗します。奥歯ではグラスファイバーは不要な場合もあります。

またクラウンを被せるという事は、歯の全周360度を囲むことになり、ちょうど樽のタガを締めるような構造になります。これをフェルールといい、破折の抑止力となります。

つまりクラウンは外見を作っているだけでなく、実は破折防止に有効な構造を作っているのです。逆に削るのがもったいないといって中途半端な詰め物を選択すると、破折のリスクは一気に上がりますので、特殊な場合以外はクラウンが選択されます。

神経をとった歯の噛む感覚は鈍くなっている

困ったことに神経をとった歯は噛む感覚が鈍くなり、過剰な圧力で噛み続ける傾向にあります。

噛む圧力のセンサーは、歯と骨の間にあるクッションシート(歯根膜といいます)内にあるのですが、不思議なことに歯の中の神経(歯髄といいます)があった時代よりも反応が鈍く、神経があった時よりも過剰な力で噛み過ぎてしまうのです。

先に書いたように神経をとった歯は脆いので補強をかけてはありますが、使っていくほどに物理的に疲労して行きます。これが長年続くと、下の写真のように残った自分の歯が一刀両断に割れてしまいます。

クリックして歯根が破折した歯の写真を見る
歯根破折した歯

以下の動画では、歯が割れる実態についてご覧いただけます。

破折最大の原因は歯ぎしり

実は破折最大の原因は歯ぎしりです。

歯ぎしりなんてしてないよって方が多いのですが、実際には歯を強圧で擦って(下顎を動かして)ギコギコ音がする「歯ぎしり」ではなく、静止状態で強圧で噛み続ける「噛みしめ」の方が多く、これは音がしないので隣で寝ている人にも判りません。

原因は解明されておらず、ほとんどの歯科医院では下で説明するマウスピースで保護するのが精一杯というのが現状です。

歯ぎしりは無意識に行なっているので、ほぼほぼ自覚はありません。しかし発見しようという強い意志をもってから就寝すると自覚できる事があります。これは古くから行われている自己暗示方というものですが、これについては項を改めることにします。

さてこれじゃ防ぎようがないじゃないか、と思われそうですが、自由診療専門歯科ではまったく異なるアプローチもします。それが「血糖値の安定化」です。

血糖値の安定化とは

歯軋りや噛みしめをしているということは、体が緊張状態で力が入っているという事です。寝ていてリラックスしているはずなのに緊張状態とは、どういう事なのでしょう?

簡単に説明すると、夜間は食事をしませんからエネルギーは消費される一方で低血糖(ブドウ糖の枯渇)状態になります。するといろんなホルモン(体を調整する物質)が出て、肝臓で糖新生といってブドウ糖を産生し、血糖を適正値に戻そうとします。

ところがストレス・夜型生活・スマホのブルーライト・栄養のインバランスなど、現代人によくある生活習慣が原因となり、糖新生が上手くできない人が大勢いる事が解っています

上手く行かないと低血糖で死んでしまいますので、体はこれを回避するために最終手段としてアドレナリンを出して、瞬時に糖新生させます。

アドレナリンは名前だけはご存知の方が多いと思いますが、要するに危機に瀕した時に使われる攻撃用のホルモンです。敵と戦う・敵から逃げるという古代から続くシチュエーションから、現代人は仕事でドヤ顔でプレゼンをする時やゲームの時にも使われます。ものすごい緊張と集中している状態ですね。

血糖値が不安定なとき体は生命危機と判断するので、普通の方法で糖新生がうまくできなければ、最終手段としてアドレナリンで緊急に糖新生をするようです。これが就寝中に起きれば緊張状態になりますので、歯軋りや寝汗をかくことになります。これについては以下の日本経済新聞の記事が参考になります。

これはまだ仮説ですが、夜間低血糖の補正をアドレナリンに頼らざるをえない人に歯ぎしりが多いとは、理論的に納得できる話です。

では本当に低血糖が起きているかといえば、実際にはアドレナリンで補正された状態しか測定できないので、数値上は低血糖になっていないと考えられます。

しかし連続して血糖値を推計する便利な装置があり、私は患者さんにこれを買ってもらい、約二週間分の血糖の変動傾向を調べています。フリースタイルリブレという装置です。

以下はこれで測定した例ですが、夜間に血糖値が細かく変動しているのが判ります。これはアドレナリンが出た結果血糖値が上昇しすぎて高血糖になりそうなので、直ちにインスリン(ブドウ糖を細胞内に移動させるホルモン)が出て血糖値を下げようとしてる跡のようです。すると今度は血糖値を下げすぎ、またアドレナリンが出る…という行程を短時間で繰り返している結果と予想されます。

おそらくアドレナリンとインスリンが同時に出ている時もあるのでしょう。脳は血糖値の変化に非常に敏感で、不定愁訴の大きな原因となりますので、悪夢を見ることも十分予想されます。

長くなるので、この件についてはまた別枠で詳述しますが、以下もご参照いただくと理解が深まるでしょう。

補足

フリースタイルリブレは血糖値ではなく筋肉の間質液というものの糖度を記録するもので、そこから血糖値の変動の傾向を推測するものです。したがって値は実際の血糖値ではありませんのでご注意ください。⚪︎⚪︎食べたら急上昇した・夜間に異常な糖新生があった、夕方のだるさとリブレの値がリンクしている、などをみて生活習慣のや食事の見直しをする手掛かりに使いましょう。

マウスピースだけでは歯は守れない

歯ぎしりで白い圧痕がついたマウスピース

マウスピースは、歯を積極的に保護する手段として有効です。血糖値の安定化が習慣になるまでは時間がかかるので、先にこれをいれることにします。

マウスピースには多くの種類があるのですが、私が選ぶのはペットボトルのような材料でできている薄型で、石膏模型に圧印するもの、診療室内で担当歯科医衛生士が作製しています。

これを就寝中に装着して一週間後に持ってきてもらうのですが、上の写真のようにすべての人が強く噛み合わせていた証拠となる白い圧痕がついています。歯ぎしりが重症な人だと、穴を開けてくる人もいます。

私は歯ぎしりなんてしていませんと主張する人は多いのですが、これで初めて本人が歯軋りを自覚することになります。

薄いので違和感が少ないのですが、このままだと構造的にどうしても第二大臼歯が強く当たることになります。そのため実際にはこのマウスピースにプラスチックを盛り足して、上下の歯全体ができるだけ均等に当たるように調整する必要があります。

マウスピースは歯ぎしりによる圧力が一点集中しないよう、分散させることが目的で、歯ぎしり自体を軽減させる働きはしません。すなわち上下の歯で潰す力が加わり続けていること自体、なんら変わりません

マウスピースには硬くて厚い材料を好む先生もおられるのですが、厚みがある分だけいつもマウスピースを噛んでしまい、かえって緊張状態になるので、私は顎関節治療などの特殊な場合にしか用いません。

いすれにせよ、マウスピースだけでは歯は守ることはできないので、過信しないように注意しましょう。

なおマウスピースは、きちんと歯を磨いてから装着しなくてなりません。マウスピースは密閉状態をつくりますので、プラークがついたまま装着すると細菌が思いっきり増えてしまい、ムシ歯や歯周病を助長します。

もちろん歯磨きチェックも必要です

クラウンをセットした歯には、自分の歯と人工物の境目があります。自由診療では境目にできるだけ段差ができないように細心の注意を払って作られますが、それでも境目は構造上の弱点なのでムシ歯のリスクは高くなります。

つまり歯の磨き方や食べ物を改善しなければ、境目からまたムシ歯になるのは当然です。物事には原因がありますので、その原因が解決ないまま形だけ修復しても、結果はついてきません。

歯ブラシは毎日の単純作業ですので、正しい方法をお教えしても、どうしても自己流に戻ってしまいます。うるさいようですが、定期的に確認させてもらっているのはそういうわけです。

自動車に車検があり、マンションにも定期点検があります。これは他人に迷惑をかけないように、予め判っている事態に対応するという意味です。歯にも同じことが言えるということですね。

以下は当診療室でお教えしている歯の磨き方です。一般に言われている方法とだいぶ違うと思いますが、ぜひ一つずつモノにしていってください。

定期的な噛み合わせバランス調整

実は歯はわずかに動きます。これは歯と骨の間に歯根膜というクッションシートがあるからです。

その量は目には見えないほどですが、これがあるおかげで歯は過大な力がかかっても、わずかですがいなす方向で動きます。

しかしそれにも限界があるので、越えることが頻発すれば歯根破折に近づきます。

セットしたクラウンは、まだ上下の歯の山谷関係が微妙に合っていませんから、本人が気づかない過大な力が歯にかかっている可能性があります。セットした直後には分からないので、一週間後くらいの調整は必須です。

それから経年的に歯の位置は移動することも覚えておいてください。10年前の歯並びと今の歯並びは、微妙に異なります。その差が歯の噛み合わせバランスを崩している可能性があります。この変化に気づく人はいませんが、歯科医院で診てもらえばすぐに判ることです。

骨は加齢とともに萎縮していきますので、歯もいっしょになって移動します。またインプラントは移動しないので、人為的に残った歯に合わせるような調整が必要になります。

繰り返しになりますが、これらの変化に気づく人はいません。定期検診では歯磨きのチェックだけでなく、少なくとも半年に一度は噛み合わせバランス調整もしてもらうようにしましょう。

ボトックスによる咬筋力の制限

いろいろ書いてきましたが、もっと手軽で即効性のある方法はないの?というセッカチなあなたにピッタリなのがボトックス注射です。

美容に興味のある方ならよくご存知でしょうが、ボトックスはボツリヌス菌が産生する物質を原材料にした薬で、これを頬の筋肉に注射することで筋肉の力を一時的に落とし、歯ぎしりによる破壊力を緩和するものです。

歯ぎしりによる歯の破折対策には確かに有効なのですが、その効果は長くても半年です。半年ごとにボトックス注射を永遠に打ち続けるのではなく、その半年間のうちに生活習慣を改善し夜間低血糖を発症しない体に再構築することを強くお勧めしています。

当診療室ではそのためのカウンセリングも行っていますので、ぜひ以下をご参照ください。

自分の健康は自分で守る、歯も同じ

あなたは自分の口の中を見て、どの歯が治療されており、どの歯に神経がないのかをすぐに言えるでしょうか?

多くの人は自分自身の情報や治療履歴を持っていません。日本は健康保険でなんでも診てもらえるし、悪くなっても医者や薬が治してくれるはず…という誤った擦り込みを文化にしてしまい、健康に関心があるようで実はそうでもありません。

しかしその時代はもう終焉を迎え、すでに近所の病院が赤字で閉院になっているのを間近で見ている人も多いでしょう。そう、安いからと言って健康保険に頼りっぱなしでは、自分の命も家族の命も守ることが難しい時代になっているのですね。

この記事では一般的に言われている事とはだいぶ違う内容も含んでおり、エビデンスがないと批判する人もいるでしょう。

しかしエビデンスが揃ってみんなが始めた頃には、あなたの歯は、さらに命は、どうなっているでしょう?

自分の健康は自分で守る、歯も同じです。そして予測可能なトラブルに予め対処することが大切、これは最近先制医療という分野で説明されています。

さてあなたは何かが起きたらしかたがなく行動する昭和の人ですか?それとも先を見越して得をするAI時代の人ですか?

株価のように難しい見通しではなく、この判りきっている事態を、いっしょに予防していきましょう!

吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニックのロゴ
この記事を書いた人

吉田 格(よしだ いたる)

東京銀座の自由診療専門の歯科医師。自由診療による本当の標準医療と厳選された代替医療を併用し、健康保険では解決しない歯周病・インプラント周囲炎・根管治療などを多く手がける。顕微鏡・レーザー・栄養療法では指導的立場にある。詳しくは以下をご参照ください。