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ちょっと待って!「白い歯が1日で入る」は条件付き

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白い歯が1日で入る!?という夢のような治療が実現する時代になりました。

技術革新により可能になった新しい治療法ですが、しかし、正しい情報が伝わりきれず、浮き足立った話も多く困ったこともおきています。

ちょっと注意していただきたい、白い歯が1日で入る治療方について書いてみます。

再び増えてきた白い歯のトラブル

白い歯が1日で入る!?という治療を喜んで受けた患者さん。ところがごらんの通り、数ヶ月で破損してしまいました。いったいどういう事なのでしょう?

そういえば7年前に、こんな記事を書きました。

最近の白い人工歯は材質も精度も良くなり、破損したり脱落するケースは少なくなってきたと思っていました。ところがまたかなりのペースで増え出しています。

健康保険で白い冠(クラン・被せ物)が一部適用になったことで総件数が増えた事もありますが、自由診療であっても減ってはいないようです。

特にトラブルが多いのが、下準備をしないでいきなり治療をすることが多い「白い歯が1日で入る」と謳っているケース。

実は白い歯が1日で入るのはかなりの条件付きで、気を引かせるための宣伝文句が多いのです。

しかし患者さんは早く終わって欲しい一心で、安易な治療を選択することでトラブルが増えているようです。

実はこの方法、1日で入りはするが、1日で終わりはしないのが本当のところ。これがまったく理解されていないために、問題が起きているようです。

本項では主に冠(クラウン)を被せる治療の場合について書いています。小規模な虫歯治療には、口の中で材料を直接盛って固めるコンポジットレジンによる治療もあります。詳しくは、以下をご参照ください。

1日で入るのは光学印象のCAD CAM冠

白い歯の材料といっても、いろいろな材料や作り方があることはあまり知られていません。本物の歯に似せて作るのですから、何も知らない方が見ればみな同じに見えるのも当然です。

ちょっと前ならまずパカっと型どりをし、そこから石膏模型をおこし、歯科技工士さんが手間をかけて作るものでした。この方法は石膏模型を作業用に加工するだけでも丸一日はかかる、たいへん手間がかかる作業です。

さらにその模型上でワックスを盛ったり鋳造したり、さらにはセラミックスを盛って焼いたり…と、ここでは詳しくは触れませんが、とにかく一本の人工歯を作るのにはたいへんな手間がかかるのが普通でした。

しかし以上の行程をガラリと変える技術革新が起きました。それが光学印象とCAD CAMという装置の出現です。

光学印象

光学印象とは、光で歯の形を計測する特殊なカメラ(3Dスキャナー)で歯の形(立体情報)をデジタルデーターとしてPC内に記録することです。

装置は上の写真のようなもので、先端を口の中に入れて歯の形を読み取って行きます。

読み取ったデーターはただちにPC画面上に現れ、その画面上で歯の形を設計していきます。私も何度かやってみましたが、けっこう面白い作業です。

光学印象は上下の歯の位置関係も正確に記録でき、作成後の調整が最小限になるという大きな特徴もあります。

ちなみに印象とは「型取り」という意味で、英語では本当に Impression と言います。

CAD CAM

CAD CAMとはComputer Aided Design Computer Aided Manufacturing の略で、キャドキャムと読みます。日本語にすると「コンピューターの助けを借りたデザインと製造」です。

先ほどのPC上で歯の形をデザインし、そのデーターを元に材料を削り出して人工歯を作ります。一般工業の世界では当たり前に使われている技術です。

上の写真は材料の一つであるジルコニアを削り出している様子です。白い円盤がそれです。

上の写真は5年前に、衛生士を連れて歯科技工所に見学に行った時のものです。歯が出来上がる行程を驚きをもって見ていました。

ジルコニアは削り出した後に加熱したり、色付けしたりという行程を踏みますが、担当者がつきっきりであれば確かに半日もかからずに人工歯を完成させることができます。

つまり型取りをして、石膏を流してというアナログな行程が全てなくなり、大幅なスピートアップが実現したわけです。

いかがでしょう?うーむ、これは素晴らしいゾ!!!と最初は誰もが思います。

しかししかし、やはり事はそう簡単には行きません。この方法が使える症例はまだまだ限定的なのです。

光学印象 CAD CAM の夢と現実

残念ながら光学印象とCAD CAMは、従来のアナログの製造方法を完全に置き換えるにまではなっていません。やはり製造法の限界というものがあるのです。

歯肉の下の深い部分は記録できない

光学印象をするには、光がきちんと届いて帰ってこなければなりません。型取りしなくてはならなない範囲が歯肉の下にある場合、たとえば虫歯が大きくて歯肉の中にまで及んでいるケースでは、歯肉をレーザーなどで切除しなくてはなりませんが、これがけっこううまく行きません。

通常の印象は歯肉圧排といって、歯肉の中に細い糸を入れて歯肉と歯を僅かに離し、そこにシリコンなどの型取り材を注入してゆきますが、光学印象ではそれでもまだ不十分です。

このような場合は、従来通りシリコンで印象し石膏模型をおこし、それを光学印象します。すなわち始めアナログ、後はデジタルです。現実的にはこのようにした方が再現性のある良い人工歯ができあがり、私たちもこの方法を採用しています。

多数の連結は苦手

上で光学印象のPC画面をごらんいただきましたが、実はこれは機械の精度を検証するために試験的に行ったものでした。で結果、光学印象は失敗に終わりました。

「えー、なぜ?綺麗に撮れてるじゃない?」と思いますよね。ところが実際にこのデーターで作った人工歯は、歪みが大きすぎて口の中に入れることはできませんでした。

この症例は下の前歯5本の人工歯を作るものでした。しかし歯周病であることと、義歯をひっかけるために強度をあげる必要があるので、5本連結にしなくてはならないものでした。実は光学印象はまだまだ「連結」が苦手なのです。

光学印象は歯を一本ずつ作る分には、相当な精度で削り出すことが可能です。しかし3本くらいならまだしも、5本とか、そして左右にまたがるような大型の症例では十分な精度を出すことが難しいのです。

ということで、この5本連結の症例は初めはアナログ、後はデジタルで作られました。ですから1日では仕上がりません。

削り出したままではまだまだ不正確

上で「相当な精度で削り出すことが可能」と書きましたが、実はいつもそうとは限りません。

削り出したものがピッタリ合うかは、削る器具の消耗品の新旧でけっこう変わります。いつも新品をというわけにも行かず、中には合わないものも出てきます。

「初めアナログ、後はデジタル」で作られた人工歯であれば、削り出されたものを石膏模型に戻して適合(ピッタリ具合)を見ることができます。しかし完全デジタルの場合、患者さんがそこにいなければピッタリ具合を診ることができません。

実はこの適合の最終調整を手作業でやるのが、歯科技工士さんの腕の見せ所になります。適合は人工歯の命です。患者さんは見た目の良し悪ししか判りませんが、私たち現場は、それ以前の適合から見ているのです。ところがこれが解っていない人が多く、後で書くトラブルに繋がります。

上でCAD CAMは一般工業では当たり前になっていると書きましたが、人工歯の形態は非常に複雑なので、一般工業以上の精度が必要なのです。

色再現は今二つ以上

患者さんが一番気にするのが、人工歯の色です。

金属を白い人工歯に交換したはいいが、よく見れば白といってもジルコニアはニュアンスがずいぶん違います。

実はジルコニアは基本真っ白々。最近は歯の色にかなり似せたものも出てきましたが、それでもまだ不自然です。そこで表面に着色をし、できるだけ周囲の歯の色と調和するように仕上げます。もちろんここはアナログな作業です。

こうしてできたジルコニア製の人工歯ですが、それでも似せ具合としては今二つ以上で、ベタッとした色調は否めません。さらに似せるには、最初は小さなジルコニア製の冠をつくり、その上に従来通りセラミクスを盛ってつくることになります(ジルコニアポーセレンとか、PFZと言います)。これは従来メタルボンドとかPFMと呼ばれていた方法の、金属部分をジルコニアで置き換えたものです。前歯など色調を完全に合わさなくてならないケースで多用されます。

ジルコニアはどうしてもベタな感じにしかなりませんが、二珪酸リチウムという強化ガラス材をCAD CAMで削り出す事もできます。こちらは歯に近い透明感があり、ジルコニアよりはまだ自然な色調に仕上がります。しかし色の種類も限定されますし、それ以上に脆くて破折しやすいという欠点もあり、使う部位を慎重に選ばなくてなりません。

いずれにせよCAD CAMのみで作られた人工歯の色はちょっと不自然です。しかし奥歯であればそれほど問題にはならないため、わたしのところでも多用してます。適材適所ということです。

意外に問題が多い接着の技術

CAD CAM で作られた人工歯は、必ず専用の接着剤(正しくは接着性レジンセメントと言います)で装着する必要があります。そしてこの接着の良し悪しが予後に大きく影響することも、あまり知られていません。

接着とは非常にシビアなもので、くっつける対象である歯の表面と人工歯の内面に汚染がないことが大前提です。ところがこれがけっこう難しく、特に歯の方はプラーク・出血・唾液で汚染されますので、接着直前にどれだけ綺麗に清掃できるかがポイントになります。

このとき歯ブラシの状態が悪くプラークの付着量が多かったり、歯肉から出血するようでは、接着剤は乗りません。この状態では接着力は大きく低下し、早期脱落や破損の大きな原因となってしまいます。

一度歯に人工歯がセットされると、外観からは接着の良し悪しはもうわかりません。

ということで、歯に人工歯を入れるには、それ以前に歯ブラシがきちんとかけられる練習をし、歯肉炎が収まっていることが大前提です。

ところがこれが行われないまま、さっさと人工歯を入れてしまうケースがかなり多いのです。これがトラブルの一因です。

したがって、白い歯が1日で入る治療といっても、きちんとした下準備が絶対に必要なので、その日数も確保する必要があります

白い歯が1日で入る条件

結局、白い歯が1日で入る治療とは、どういう場合なのでしょう?まとめてみると、以下のようになります。

  1. あまり色調を気にしない奥歯(特に上顎)
  2. 1本ずつの治療(3本の治療なら3連結ではなく1本ずつ3個にする)
  3. 1本欠損程度の小型ブリッジ
  4. 光学印象が可能な範囲の欠損(歯肉中の深い部分は難しい)
  5. 歯がきちんと磨けていて、歯肉に炎症がなく、容易には出血しないこと
  6. インプラント上の人工歯
  7. 神経がある歯(有髄歯といいます)では神経に炎症がないこと
  8. 神経がない歯(無髄歯といいます)では根管治療が完了していること
  9. 上の前歯6本連続で治療(隣の歯の色を気にする必要がなくなります)

いかがでしょう?この条件に当てはまる人は、いったいどれほどおられるのでしょう。残念ながら私のところには、あまりおられません。

唯一良い適用になっているのが、6のインプラントです。実は光学印象とCAD CAMの得意技はインプラント上の人工歯の作成で、アナログを完全に凌駕しています。理由は、インプラントは工業製品で、最初から形が決まっているからです。形が決まっているものから人工歯を作るのは、とても容易です。しかし自分の歯はそうは行きません。歯の数だけバリエーションがあるのです。

逆に、最も問題になるのが5です。当然といえば当然なのですが、歯が磨けていないからむし歯になるわけで、その原因が解決していないまま外見だけ変えても、次はもっと困ることが起きるのです。

モノだけでなく、コトも重視してほしい

現在健康保険ではジルコニアや強化ガラスではなく、コンポジットレジン製のCAD CAM 人工歯ができるようになっています。

しかし健康保険では歯ブラシの指導は事実上1ヶ月に15分しかできません。この時間内で歯ブラシ技術を会得できる人がいるはずはありません。

つまり大切な行程を無視し、さっさとCAD CAM人工歯を入れてしまうケースがまだまだ多いのです。そしてその延長で自由診療を考えている歯科医院があるならば、トラブルが増えているのも納得できる話です。

吉田歯科診療室が自由診療専門なのは、治療前から歯磨きを徹底させ、悪くなった原因をできるだけ排除したうえで、最善の治療を提供する目的があるからです。良い治療とは、良い材料だけで成り立つものではないのです。

もしあなたが「口を開けて1時間くらい我慢していれば、綺麗な歯で帰ることができる」「お金さえ払えば、努力なんてしなくて済む」と思っていたら、それはすぐに改めなくてはなりません。しかし残念ながら、それをきちんと教えてくれる歯科医院は、まだそんなに多くはありません。

ネットや広告で「銀歯を白く」とか「白い歯を1日で」と、耳障りの良い広告を見かけますが、それはかなりの条件付きです。よく調べてからお決めになることが強くお勧めいたします。

特に「セラミック矯正」と称し、前歯6本くらいを一度に削り、即日入れる治療のトラブルは、目を覆わんばかりのものがあります

それからたとえ1日で入ったとしても、後日の微調整やセメントの取り残しの確認、そしてもちろん歯磨きのチェックなどが必須です。それを行わないと、下の写真のようなトラブル発生の原因となります。

この写真の中には、そもそもムシ歯が取りきれていなかったりと、基本的な治療ができていなかったためにおきたトラブルもあります。急ぐと目に見えない部分が疎かになる…何事もそういうものではないでしょうか。

後からやり直しができるならよいのですが、歯の場合はそうは行きません。時間がかかっても安全で確実な方法を選び、メンテナンスしながら長く使ってゆく、人の体に適用するものはそうあるべきだと思います。

良い歯の治療はモノの差だけではありません。目には見えないコトの差も重視していただければと思います。

吉田 格
いかがだったでしょう。

白い材料は金属と違って難しいところが多く、それをさらに1日で入れるというのはそうとうな準備が必要、場合によっては諦めた方が良いこともあるのです。

光学印象とCAD CAMは、今後も飛躍的な進化を遂げコストダウンされるでしょう。また光学印象はかなり近い将来、健康保険に導入されるのは確実です。しかしそれまでに、この方法の誤解が解ければよいのですが。

どんなことにも適応症というものがあります。そのためにも、正しい知識を持って中立的な立場で相談できるところを探し、よく説明を訊いてから実行されることを強くお勧めいたします。

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