下顎大臼歯の1根を真ん中に移植
歯は移植できることをご存知ですか?よくあるのが、親知らずを第一大臼歯などの部分に移植すること。親知らずを抜いて捨ててしまうのではなく、有効利用できるのはとても良いことですね。さてここではちょっと一般的ではない移植をご覧いただきます。下顎の第一大臼歯は二本の根っこがあるのですが、そのうち片方が割れて抜歯になってしまったケースです。
下顎第一大臼歯とは

下顎の第一大臼歯はこの写真のように2本足になっています(3本足も一割ほどありますが)。
奥歯というのは大きな力がかかりますので、形が大きいだけでなく、ガッチリとした根っこが必要です。
このうち一本が割れて使えなくなり、抜歯しなくてはなりません。さてその後はどうしたらよいのでしょう?
多様な選択肢
一般的に歯が一本無くなった場合、ブリッジかインプラントが適用されます。入れ歯は小さすぎて飲み込む可能性があり危険なので、ほとんど行われません。
さてこのケースの場合は「1本」ではなく「1/2本」ですので、話が難しくなります。
インプラント
まずインプラントは狭すぎて入りません。インプラントにするには、使えるもう片側の根っこまで抜かないと、スペースを稼ぐことができません。しかしそれはもったいないです。
ブリッジ
第一大臼歯を使う
ブリッジにするには、手前側の歯(第二小臼歯)にも冠を被せるために、大きく削らなくてはなりません。これもちょっともったいないです。
それから、第一大臼歯の残せる根っこは、もちろん神経がありませんので、噛む圧力で割れる可能性が高くなります。せっかくやっても長期間の維持は難しいかもしれません。
第一大臼歯を全部抜歯
ならば中途半端な事はしないで、第一大臼歯は全部抜いて、第二大臼歯と第二小臼歯とで通常のブリッジにする、というのが一般的な選択だと思います。
しかし、やっぱりもったいないですよね。
第一大臼歯の使える根っこを真ん中に移植
歯が無くなった場合の選択肢としてもう一つ、歯を移植する手があります。
移植は成功率がインプラントよりも劣るためあまり一般的ではないのですが、移植のために持ってこれる歯があるならば、抜いて捨てるのではなく利用してみてはいかがでしょう。
このようなケースでは、使える根っこを真ん中にに移動させることで解決できます。
歯の移植を選択する
患者さんと相談した結果、移植することになりました。
最初外観はこのような状態でした。


使えない方の根っこは抜歯し、同時に使える方も抜歯して直ちに真ん中に置き固定します。この時、根っこは90度回転させて置くことがポイントです。レントゲンではこうなります。

2ヶ月もすると傷も閉じ歯の周りに骨が出来てきて、使えるようになります。

しばらく仮の歯で様子を見た後、ジルコニア製の冠を被せて完了となりました。

なお抜歯して移植する根っこはこんな感じでした。根の先端は感染している可能性が高いので、移植前にお掃除してあります。

移植のメリット・デメリット
移植治療は、もちろん供給元となる歯が必要です。もし親知らずなどの使っていない歯があれば、抜いて捨ててしまうのではなく、移植用に使う手が残されています。
歯の表面には歯根膜という薄いクッションのような組織があります。これは骨を誘導し繋ぎ止める働きがあるので、適切な条件下では歯が生えているいる状態と同じようにどこにでも移動させることができます。
ただしこの歯根膜はとても弱く、抜歯するときに剥がれ落ちてしまう事があります。したがって骨がガッチリしている部分の抜歯は、力がかかりすぎて歯根膜が損傷する可能性が高く、移植に使うことはできません。よく使うのは、上の親知らずです。
移植後の歯にも歯根膜がありますので感染に強く、インプラントのようにガチガチではないので、噛み合わせバランスがとりやすいなどの特徴があります。
一方、移植の確実性はインプラントより低く、骨と癒着したり、根っこが吸収して短期間で抜けてしまう可能性があります。
しかし私たちは注意深い施術を行うことで、歯の移植にはまだまだ可能性があると考えています。インプラント治療を考える前に、検討してほしい方法と考えています。
なお同じように歯根を90度ひねって真ん中に移動することは、矯正でもできます。そちらも何件かやってみましたが、ケースバイケースで対応して行くことになります。
歯の移植に関わる費用
歯の移植に関わる費用は以下のとおりです。価格はあくまで参考であり、難易度により異なります。
- 抜歯 ¥66,000
- 抜歯窩搔爬〜形成 ¥55,000
- 移植歯固定 ¥33,000
- 骨移植 ¥66,000
- 仮歯や冠に関わる金額は別途
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